• 政策提言

    No.4

    知的財産権とイノベーション研究ユニット

デジタル革命に対応したデータ利活用マネジメント -知財戦略の視点から-

 本稿はデジタル革命が進展するなかで、Society5.0の示すよりよい社会の実現に向けて、自然データ、産業データおよびパーソナルデータの利活用を進めるため、企業のデジタルトランスフォーメーションに向けた提言を示すものである。デジタル革命の到来に対しては、プライバシーの侵害を伴う監視社会の到来や、非人間的な意思決定、そしてデータ覇権主義など、多くの懸念がある一方、Society 5.0が示す多様性を許容するInclusiveな社会へ導く手段としての強い期待がある。現在はその分水嶺にあるという認識のもと、デジタル革命によって望ましい社会に導くため、新たな情報財として広義の知的財産と位置づけされるデータの利活用ルールを定めていく必要がある。

 おりしも新型コロナウイルスの感染拡大は、フィジカル空間に存在する社会インフラの脆弱性を露呈することになった。今後多くの社会システムがサイバー空間に移行され、企業活動のデジタルトランスフォーメーションは不可避のものになる中で、データの利活用のルールは未だ確立されているとはいえず、感染症対策においても官民のデータの利活用のための連携がカギであるにもかかわらず問題は山積しているといえる。

 当研究ユニットの研究として実施してきた企業等に関する実証研究からは、単にデータを多く保有することが産業にとって意味があるということではなく、①企業は自社のデータを利活用するためのbig data analytics capability等のデータ活用能力を備えていることが重要なのであり、さらに、②企業は複数組織間におけるデータを介した円滑な協力を可能とするためデータ契約能力を備えていること、③企業は複数の組織によって取得されたデータの機械学習を用いた利活用を促進するため、組織内および組織間においてもデータの信頼性に関する標準化が行われる必要があることなどが重要であることが明らかとなった。さらに、④標準化され経済的価値を生み出す必要条件を備えたデータについては、広義の知的財産としてクロスボーダーを含む経済的取引が円滑に行われるよう、その流通や活用を促進する仕組みが整備されること、⑤企業は現行のデータ保護制度や個人情報保護制度の限界を認識し、意図せざる情報流出や社会的受容性の欠如からくる炎上などの対策については十分注意深いマネジメントが行われること、を課題とした取り組みが重要であるとの結論を得た。

 これらを図に示す。

図:サイバーフィジカルシステムにおけるデータマネジメントの5つの課題

 さらに既往の文献や産業界、政府などにおける議論をベースとして、企業がデータ利活用に際して留意する点を整理した。これらをもとに、企業自身が取り組むべき施策、およびこれを後押しするために政府等が行うべき施策を整理し、提言としてまとめたものである。

政策提言

1.企業経営者を構成メンバーとする経済界のグループに加えて、政府および大学等が連携協力してコンソシアムを構成し、デジタルトランスフォーメーション促進のための経営デザインシートの開発とその活用を推進すること。

2.AIデータ契約ガイドラインの国際的認知活動を産学官の連携で推進すること。具体的にはデータ契約に関する国際会議や、海外で類似のアプローチを行っているセクターに対する調査と情報共有の促進などを、官民協力で進めること。

3.企業でAIデータ契約を担うため、法務部門、知財部門や事業部門が連携して、データ事業担当の役員が担当として意思決定を行う体制を整えること。

4.AIデータなどの契約や知財マネジメントを専門とするデジタル法務に強い法曹資格者およびデジタル知財に強い弁理士育成に取り組むこと。

5.データ流通やAIデータ活用の団体が主体となり政府等が協力して、健全なデータとAIの利活用市場を国際的に形成していくための協議の場や、普及啓発を行うネットワーク活動などを推進すること。

6.パーソナルデータの消費者受容性に関する研究に産学官が連携して取り組み、望ましい規格や規範として標準化にも取り組み、これらを企業の自主基準等に活用することを政府としても促していくこと。

7.ビジネス系・MOT系専門職大学院、および起業家教育プログラムなどでデジタルビジネスのコンテンツを開発し、これらの教育と人材育成を推進すること。そのために必要なケース教材などの開発を行うこと。

(文責:渡部俊也、平井祐理)

この政策提言は、東京大学未来ビジョン研究センター知的財産権とイノベーション研究ユニットの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。