-
No.5
産学連携と社会システム研究ユニット
大学を核としたベンチャーエコシステムに着目した産学連携政策
No.5
産学連携と社会システム研究ユニット
日本の産学連携制度の発端は1983年に文部科学省によって共同研究制度が設けられ、1987年に地域共同研究センターの設置が始まったことにさかのぼる。この当時の共同研究制度は「地域において企業が大学に相談できる場」としての位置づけられており本格的なイノベーションを生み出す共同研究を推進するというような意味合いは乏しかったが、その後科学技術基本法、および知的財産基本法などの主旨に則り、知財を生み出す大学の貢献を仕組みに取り込んだ共同研究制度へと発展した。しかしこの当時の大企業と大学との間は共同研究の対価、特に知財の対価をめぐってはゼロサムゲーム的な緊張関係があったこともあり、事業創出という面でも大きな成果に結びつくことはなかった。
一方大学からのベンチャー創出政策は2000年前後から始まり、紆余曲折を経て、近年は時価総額1000億円を超えるベンチャーも生まれるようになった。大学が生み出す大半の知財は専ら大企業に供給されたが、例外的にベンチャーに移転された知財については、エクイティーを対価とする取引などで成功し、大学に大きなリターンをもたらす例が出始める。以降は、産業界も大学のベンチャー創出機能に関心を寄せ、大企業と大学発ベンチャーの連携強化や、大企業と大学の研究成果を基にしたベンチャー創出などに注目するようになった。
このようななかで、産学連携政策の視点は、研究と教育を本務とする大学の社会貢献活動としての位置づけから、現在では大学改革の一翼を担う「大学経営に不可欠な機能」とみなされるようになり、2016年には「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」が取りまとめられた。
しかしこのガイドラインはあくまで、従来型の大企業と大学の共同研究というスキームの強化を対象としたものであり、大学発ベンチャー創出に関するインパクトを取り込むものではなく、ゼロサムゲーム的な印象を払しょくしたものではなかった。この結果、産学連携の2つのスキームである共同研究とベンチャー創出は政策面での融合はほとんど見られなかったといってよい。
しかし、大学におけるイノベーション創出の実証分析からは、産学連携活動のインパクトは、単に大学と大企業の共同研究という一側面でのつながりではなく、大学、大企業、ベンチャーとベンチャーキャピタルの4者からなるエコシステムの資金、人材、知識(知財)の循環の拡大によってもたらされるものととらえることができることを示唆している。このような観点からみたときに、このエコシステムの拡大の阻害要因となっている問題を取り除き、その間の資源の循環を発展させる後押しをする施策を行うべきであることが分かる。
本提言ではこのようなエコシステムという観点から、産学連携の現代的発展に資する施策として、以下の施策を提言した。
政策提言
1.大学と大企業が連携する「スピンオフ」及び「カーブアウト」ベンチャーを投資対象とするベンチャーファンドの創設を促すこと。
2.技術研究組合法の運用改善による大学と企業のJV制度の創設と、制度の周知啓発を行うこと。
3.地域の人材供給の機能を担う拠点を、サーチファンドなどを用いて地域への人材紹介サービスなどを実施する地域金融機関とも連携し、全国の大学が役割を担い地域振興に貢献すること。
4.SDGs ESGガイダンスをエコシステムにおける資金と知財の循環のルールとすることでエコシステムの望ましい価値観を共有するとともに、エコシステムを構成員に輸出管理などを含むリスクの啓発を行うこと。
5.産学連携研究の国内外企業に対する基本形式を米国で行われているSponsored Researchタイプの受託研究制度とすること。
6.コンサルティングに近い共同研究については、知財が生まれることを前提としない学術指導制度で対応すること。
7.URAが、大学研究者の関与する大学のエコシステムを管理し発展させる業務を担うことを検討すること。
8.本施策を推進するための中核的なマネジメントを担うマネジャーに、エコシステム開発の役割を正式に担わせることなどで内外に本施策の重要性を示すこと。
あわせて、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」の改定においては、大企業と大学の共同研究強化という視点だけでなく、ベンチャーや金融機関を包含したエコシステムを発展させる観点としてのガイドラインとし、具体策として1~8までの要素を盛り込むことを提言した。
図1:大学を核とするイノベーションエコシステム
(文責:渡部俊也)
この政策提言は、東京大学未来ビジョン研究センター産学連携と社会システム研究ユニットの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。