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    山野泰子 未来ビジョン研究センター助教 坂田一郎 工学系研究科教授 

山野泰子助教、坂田一郎教授らの論文がScientific Reportsに掲載されました

山野泰子助教、坂田一郎教授らの論文「Evaluating Nodes of Latent Mediators in Heterogeneous Communities」がScientific Reports誌に掲載されました[1]。

概要

情報技術の発達により、私達は世界中の膨大なデジタル情報を入手できるようになりました。しかしその一方で、インターネット空間では同種の意見が増幅・強化されるエコチェンバー現象、選別された特定種類の情報が続けて届くフィルターバブルなど、限定された範囲でのやりとりに起因する情報の偏りが指摘されています。好みの情報にアクセスし、好みに合いそうな情報を推薦する仕組みの中では、自分が所属するコミュニティから離れた視点を取り入れることが従来以上に難しくなっています。

本論文では、こうした情報環境の課題を乗り越えるべく、異質なコミュニティをつなぐ結節点(ノード)を検出する新しいネットワーク指標(PW)を提案しています。従来、複雑ネットワークにおけるノードの重要性は、主にそのノードによって得られる情報量や経路数に基づく中心性の観点から評価されてきました。こうした手法では重要なつながりを沢山もつノードは評価できても、複数コミュニティ間の関係性を踏まえた稀少なノードを検出することはできませんでした。本研究ではコミュニティ間の距離を考慮することにより、ノードの稀少性評価に成功しています。

ネットワーク指標は、政策科学や社会科学の分析にも頻繁に利用されています。たとえば、つながりの多さを示すハブ度(Z値)やどれだけ多くのコミュニティをつないでいるかを表すコネクター度(P値)という指標がありますが、坂田研究室ではこれらを企業の取引ネットワークの分析に応用し、企業や地域クラスターの特徴を分析してきました [2]。これは「コネクターハブ指標」として、内閣府の地域経済情報分析システム(RESAS:Regional Economy Society Analyzing System)や経済産業省の地域未来牽引企業の選定に公式に利用されているほか、2014年の中小企業白書にも採録されています。

しかし、このフレームワークで用いられたP値には、コミュニティの多様性を十分に反映できないという課題がありました。今回提案したPW指標ではこの課題を解決するため、取引の量ではなく質に着目し、コミュニティに多様性をもたらす企業をより高く評価しています。この手法を用いれば、オープン化が進み、多様な知見や情報の融合が鍵を握るようになってきたイノベーション活動において、重要な役割を果たしている企業群の候補を抽出することが可能となります。また、専門分野や関心が異なり、ネットワーク上の距離が大きい学者グループや研究機関をつないでいる人物を見つけるなど、コミュニティに多様性を取り入れる仕組み作りへの様々な応用が考えられます。

1 Yamano, H., Asatani, K. & Sakata, I. Evaluating Nodes of Latent Mediators in Heterogeneous Communities. Sci Rep 10, 8456 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-64548-6
2 Kajikawa, Y., Takeda, Y., Sakata, I. & Technovation, M.-K. Multiscale analysis of interfirm networks in regional clusters. Technovation (2010) doi:10.1016/j.technovation.2009.12.004.