Past, Present, and Future through the Lens of Cities: Perspectives from South Asia
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日程:2021年11月24日(水)
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時間:15:00-16:30 (JST)
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会場:Zoomによるオンライン(Webinar)
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします -
言語:
英語(同時通訳をご利用いただけます)
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主催:
未来ビジョン研究センター SDGs協創研究ユニット
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南アジアは20憶もの人口を抱えると同時に、都市化、気候変動、水不足という問題に直面しており、既存の都市の力学と新たな課題の相互作用が、都市空間を形作っています。そして、政府や新自由主義の論理がそうした課題に反応することで、複合的なストレスをさらに悪化させたり、社会の断絶を生み出したり深めたりしています(政府や新自由主義の論理がストレスを生み出しているという見方もあるかもしれません)。南アジアの都市から見えてくる展望とはどのようなものでしょうか。本セミナーでは、「レンズ」としてではなく、複合的なストレスが集まる変化の「アリーナ」として、都市空間が果たす役割を研究者間で議論します。
11月24日夕刻、東京大学SDGs協創研究ユニット主催により、「都市のレンズからみた南アジアの過去・現在・未来」と題して公開ウェビナーを開催いたしました。このウェビナーでは、藤原帰一教授が司会を務めた中、パネリストとして、アリフ・ハサン氏、ナジア・フセイン博士、竹中千春教授をお招きし、南アジア全般、特にパキスタンが直面している課題の本質について議論を行いました。
冒頭、藤原教授は、パネリストと参加者に対して歓迎の意を表明したうえで、世界各地でますます都市化が進む現在、移住、気候変動、国際感染症、および資源枯渇によってもたらされる複雑な課題の性質を理解する必要性を提起し、この観点からの議論を各パネリストに対して期待したい旨述べました。
基調講演1.ナジア・フセイン博士(東京大学未来ビジョン研究センター特任助教)
基調講演者の一人として、ナジア・フセイン博士は、「都市のレンズからみた過去・現在・未来」と題して報告を行いました。フセイン博士は、気候変動、人々の国内または国境を越えた移動、そして水資源の枯渇などの複数の要因が相互に関連し合って人々にストレスを与えており、そのような現象が世界各地の都市でみられることを指摘しました。したがって、都市は、社会的、政治的および経済的プロセスを解明するうえで、注目すべき重要な研究対象になっています。
しかしながら、都市のプロセスを理解するのは容易ではありません。一部の研究者は、都市を経済活動の集中、産業と雇用の集積、大規模なインフラ、文化的・技術的学習の普及を表す地理的な集合体として認識しています。そのネガティブな側面としては、混雑、不平等、社会的対立、犯罪の増加などが挙げられます。また、都市に自然な要素は存在しないと指摘する研究者もいます。新自由主義に基づくプロセスは、少数者を優遇し、他者を排除する社会的・地理的空間を組織化するものです。さらに、人口過剰論は、資源の偏在を通じた不平等という真の懸念から目をそらすものです。さらに、社会が階級や所得に基づくだけでなく、エスニシティ、ジェンダー、宗教、人種、カースト、性的指向などに沿った不平等を経験していることに着目する研究もあります。このような隔たりは、個人や社会集団の経済状況の貧しさと結びついたときに深まるのです。
このような都市の複雑な状況の中で、新たなストレスと既存の力学の相互作用によって都市空間は形成されています。それには、トップダウンとボトムアップへの対応が含まれます。このような課題(および対応)が、地域や地球規模の政策立案者、そして一般の人々にとって、社会的、政治的、経済的にどのような意味を持つのでしょうか? ここでもまた、答えは分析手法によることになります。どのような存在論に固執するにしても、課題は都市における複雑な現実を理解することにあります。この答えの探求においては、競争と闘争の日常を含むローカルなナラティブが鍵を握っています。
フセイン博士は、パキスタンのカラチとフィリピンのメトロ・マニラで現地のナラティブを追跡し分析した結果、文脈は異なるものの、水の不平等がどちらのケースでも共通していることを指摘しました。水へのアクセスの不平等が原因で、水不足に直面する恵まれない人々に損失が集中することには変わりはありません。ローカルな文脈から動的に理解することがブラックボックスの中を解明するうえで不可欠になります。
基調講演2.アリフ・ハサン氏(アーバンリサーチセンター会長/ダウッド大学建築企画学科建築研究会アドバイザー)
フセイン博士に続いて、もう一人の基調講演者として、アリフ・ハサン氏は「都市のレンズからみた南アジアの過去・現在・未来:パキスタンとインドからの視点」と題して報告を行いました。ハサン氏はパキスタンのカラチのダイナミックな地上の現実についての知見を提供しました。
パキスタンの都市化、特にカラチの都市化のルーツは、1947年の英領インド分割にあります。多くの人々が国境を越えて、パキスタンからインドへ(あるいはインドからパキスタンへ)移住してきたのです。1951年の国勢調査によれば、パキスタンの都市人口の48%がインドからの移民であるとされています。1980年代から1990年代にかけて、今度はアフガニスタンからの移民が難民としてパキスタンとカラチにやってきました。現在、カラチには170万人のアフガニスタン人と65万人以上のベンガル人とロヒンギャの難民が住んでいます。これらの数字は、カラチおよびパキスタン国内の都市化の傾向を示しています。
カラチはパキスタンで最も人口の多い都市です。シンドの都市人口の62%、シンドの全人口の30%、パキスタンの都市人口の22%が住んでいます。カラチは、GDPの15-20%、またパキスタンの総歳入の55%に大きく貢献しているため、州内の他のどの都市よりも投資を呼び込み、雇用機会を生み出しています。
住宅に関する統計には混乱が見られますが、この都市の現実を知るための窓を提供しています。年間の住宅需要が35万戸であるのに対し、公的な住宅供給は年間15万戸です。この住宅供給のギャップは、公的な方法と非公式な方法によって満たされています。低所得者層は、国有地(立ち退きのリスク、利用可能性の低下とコストの増加、立地の問題などが残りますが)、非公式な農耕用分譲地(保有権の保障、土地への投機、立地の問題などが残りますが)、既存の居住地や金持ちが放棄した旧市街地に居住するなどの方法で、居住することができます。中所得者層は開発業者から住宅を購入することが多くなり、銀行からの融資も受けられる可能性があります。高所得者層は、都市近郊に区画された特別な居住区に住むことが多くなっています。
これらの住宅動向は、不平等の拡大を明らかにしています。カラチ住民の71.32%は100平方ヤード未満の区画に住んでおり、カラチ住民の24.27%は100〜120平方ヤードの区画に住んでいます。カラチ住民の62%は、市内の住宅地の23%にある非公式の区画に住んでいます。これらの集落の密度は1ヘクタールあたり1,500〜4,500人であり、増加し続けています。貧困層に配慮した政策対応がなされない場合、低所得層が住宅にアクセスすることは困難です。カラチ住民の人口の72%が非公式な経済に関与しているため、銀行からローンを組んで資金を確保する手段がありません。自助的な手段によれば、非公式な居住地の高密度化につながります。一方、カラチ住民の36%は、市内の住宅地の77%にある「計画された」集落に住んでいます。密度は1ヘクタールあたり80人まで低くなる可能性があり、新しい集落では減少し続けます。
カラチでは、世界レベルの都市ビジョンを追求し、市場の自由化、都市の富裕化現象、「投資に適したインフラ」整備のために、高架道路と信号のない道路の建設が行われています。これらの政策は人に優しいものでも、大多数に対する生態学的、社会的、経済的影響を考慮に入れているものでもありません。さらに、外国からの直接外国投資によって、都市計画はプロジェクトに取って代わられました。その結果、住宅は市場で供給されなければならなくなりました。これらの開発は、土地に飢えた中産階級の出現、強欲な開発者、連邦・州の土地所有機関が投機目的や商業開発のために市内に4,000ヘクタールの土地を保有することと連動して起こっています。また、都市近郊の3万2千ヘクタールには、ゲート付きの高級・中級住宅地が建設され、生態系や文化にダメージを与え、農村経済の破壊を引き起こしています。有力な開発業者からの圧力により、シンド州政府は「シンド州高密度委員会法」と「シンド州開発委員会法」を制定し、都市設計や大都市計画なしに、あらゆる区画や地域を高密度化する権限をこれらの委員会に与えています。カラチの現実には、車の増加に伴う渋滞の増加、正規雇用の減少、若者の増加、水不足と水位低下、気候変動によるストレスなどがみられます。
カラチの問題は数多くありますが、解決可能なものばかりです。投機を抑制し、環境と生態系を保護するための土地改革、さらに土地開発業者に対する政府の支援の縮小が急務であす。都市開発プロジェクトは、地域の生態系を損なうことなく、有形・無形の文化を保護する必要性を考慮したものであるべきです。この目標のためには、建築家やプランナーは、都市の人々や生態系に有害なプロジェクトに関与しないという宣誓をすることができるはずです。1983年にそのような誓いを立てたハサン氏は、誰もがこの理想に忠実であれば、変化は可能であると希望を持って報告を締めくくりました。
ディスカッサント: 竹中 千春 (立教大学法学部教授)
3番目のスピーカーとして竹中千春教授は、フサイン博士とハサン氏の報告を踏まえて、次の2点の核心的な質問を提起しました。カラチだけでなく世界の他の都市の人々のニーズに対して、どのようなプロセスとプレーヤーが対応できるのだろうか。第二に、都市空間は、相互に関連する課題と挑戦、および都市・国家・世界の間のつながりの中に複雑性があるなかで、研究者はローカルおよびグローバルそれぞれのレベルの政策立案者にどのような問題提起と代替案を提案できるだろうか、という二点の問題提起です。
この問題提起を踏まえて、フセイン博士が指摘したのは、一般の人々を含む複数のプレーヤーの闘争と競争を明らかにする重要性です。それは誰がこれらの闘争を語ったのか、そしてこれらの物語がどのように語られたのかを問うことが重要であるということです。カラチの挑戦についてのハサン氏の報告の中で際立っていたのは、開発は、貧しい人々ではなく、エリートと中産階級の利益に貢献しているという点です。新自由主義プロセスの支配的なパワーとその到達範囲を考慮して、市場による支配よりも環境的および社会的配慮をどのように優先することができるでしょうか?大多数の利益にどのように奉仕し、無形の文化を尊重しそれを守ることができるでしょうか。これらの大規模で複雑な課題に直面しているどのプレーヤーとプロセスが、前向きな変化のエージェントとして機能できるのでしょうか。
竹中教授は、気候変動とCOVID-19に関する自身の研究に言及したうえで、気候変動とパンデミックの地球規模の問題に取り組むためには、地域社会が国家や国際社会とどのように協力できるかに焦点を当てる必要があると述べました。明らかなことは、人々は地方自治体による管理における優先順位や、新自由主義経済の利益だけに頼ることはできないということです。答えは、市民社会の結集にあるように見えますが、課題は人々を団結させることとともに、社会科学者および自然科学者によって提示された解決策を国民国家の意思決定と融合させることにあります。さらに、社会内や国家間の分裂を克服することは容易ではないことにも注意が必要です。
変化の場として機能する大きな可能性を秘めた都市は、学者、草の根レベルの活動家、そして政府が協力することを勧めています。しかし、調整された対応がない場合、都市は不安定化し深刻な不平等を産み出す場所になる可能性もあります。
以上の基調報告およびパネル討論に続いて、一般参加者からの質疑応答が行われました。藤原教授が司会を務め、パネリスト間や参加者とパネル間での意見交換が活発に行われ、今回のセミナーは成功裏に終了しました。