ブックトークイベント “The Railpolitik: Leadership and Agency in Sino-African Infrastructure Development”
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日程:2025年03月14日(金)
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時間:10:00-12:00
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会場:対面開催: 東京大学伊藤国際学術研究センター3F 中教室
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主催:
*東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット (SSU)
*科研費基盤B「東アジア国際秩序の歴史的形成過程:非西洋国際関係論と地域研究の接合」 -
言語:
英語 (同時通訳なし)
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お申込み:
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このブックトークでは、Yuan Wang助教授(Duke Kunshan University)のThe Railpolitik: Leadership and Agency in Sino-African Infrastructure Development(Oxford University Press, 2023)を取り上げます。
中国のアフリカにおける存在感の増大は、学術界や一般社会からの関心を高めています。2000年代初頭に北京が「Going Global」政策を発表し、さらに2013年の「一帯一路」構想によって制度化が進む中で、中国の政策銀行や国有企業はアフリカ諸国と協力し、複数のインフラプロジェクトを資金援助・建設してきました。これらのプロジェクトは「中国的な特徴」を持ちながらも、各国で大きく異なる発展経路をたどっています。なぜ中国が資金提供・建設したプロジェクトの中には、他よりも上手くいくものがあるのでしょうか?また、アフリカ諸国の公的サービス提供能力の違いはどのように説明できるのでしょうか?
The Railpolitikは、中国が資金提供・建設した鉄道プロジェクトの3つの事例研究を通じて、中国とアフリカの急速に進展する関係の全体像を探り、アフリカ国内政治への示唆を見出します。従来、開発国家のような中央集権的な政治制度が、統治者の開発プロジェクトへのコミットメントを促すと考えられてきました。しかし本書は、ケニアのような民主主義国家では、競争的な選挙による脅威の認識が、指導者による政治的リーダーシップを生み出すことを明らかにしています。さらに、中国が資金提供・建設したこれらのプロジェクトは、アフリカの統治者たちの「政治的生存」戦略と一致しており、統治者の正統性を示す手段として、また縁故主義体制を強化する道具として、政治的に活用されていることを指摘します。
アフリカ諸国において中国の資金により建設が進められたプロジェクトで、各国が類似点はありながらも異なる経過をたどっているのは、どのような理由によるのでしょうか。昆山杜克大学助教(国際関係学)のYuan Wang博士は、著書「The Railpolitik: Leadership and Agency in Sino-African Infrastructure Development」の中で、中国とアフリカとの急速な関係強化、アフリカ諸国の国内の政治動向にスポットを当てています。
2025年3月14日、東京大学未来ビジョン研究センターの安全保障研究ユニット(SSU)は、Wang博士を迎え、この著作に関する基調講演を開催しました。講演に続いて、Wang博士は上智大学助教の大平和希子博士と討論を行い、その後、観客から質問を受けました。本セッションでは、未来ビジョン研究センター准教授、向山直佑が司会を務めました。
基調講演
Wang博士は、自身の研究の主旨を説明するにあたり、中国の資金によりアフリカ3か国(ケニア、エチオピア、アンゴラ)で建設が進められた鉄道プロジェクトが各国で異なる結果に至っている現状を比較して紹介しました。具体的には、ケニアでは概ね順調にプロジェクトが進み、エチオピアでは進捗が遅れたものの現在は運行中、アンゴラでは建設が11年遅れた末、現在も難航しているということです。これまでの学者が、中国の主体的な関与やアフリカ諸国の官僚の能力を問題の原因とする傾向があったのに対し、Wang博士は、アンゴラ、中国、エチオピア、ケニアでの現地調査の中で広範なインタビューを実施し、このようなインフラプロジェクトの成否を分ける要因として、アフリカ各国の政治的指導力と国内政治が果たす役割に焦点を当てるべきだと主張しました。
講演の中で、Wang博士はケニアとエチオピアの2件の鉄道プロジェクトを例にとり、中国の出資による鉄道プロジェクトを推進する上で、アフリカ諸国の政治的指導力が重要だと説明しました。Wang博士によると、インフラプロジェクトを推し進める意思と能力を備えた優れたリーダーを意味する「政治的チャンピオン」がいれば、官僚制度の障壁を乗り越え、プロジェクトを最後まで確実に遂行することができるといいます。ケニアでは、民主的な制度により、政治指導者が鉄道プロジェクトを優先するための選挙上のインセンティブが用意されました。一方、エチオピアでは、中央集権体制下で当初は鉄道プロジェクトが急速に進展したものの、その後、政治体制の移行や他の優先事項によりプロジェクトが滞りました。
討論と質疑応答
Wang博士による講演の後、大平博士が加わって討論が行われました。その中で、中国の国有企業と欧米の資金提供国との労働慣行の違いやアフリカでのインフラプロジェクトの結果の違いに関する調査などの既存の文献と、Wang博士の研究を比較しながら、Wang博士の研究では、特に規模や複雑さの点で同等の鉄道プロジェクトに関し、中国の資金によるアフリカのプロジェクト内部の力関係がより深く洞察されている、と大平氏は述べました。
その後、大平氏は3つの疑問点を挙げました。第一に、「政治的チャンピオン」理論により大規模なインフラプロジェクトの成功をどの程度確実に予測できるのかということです。プロジェクトの結果は、指導者の能力や個性、現地の状況・動向に左右されるため、不確実なように思われると大平氏は指摘しました。また、大規模なインフラプロジェクトでは、中国の国有企業は現地の政治情勢にうまく対応しながら適切な提携先を選ぶのが難しい場合もあるのではないか、と大平氏は述べました。第二に、アフリカ諸国では政権争いが激しいかどうかによって指導者の政治的コミットメントの度合いが違うというWang博士の主張に触れながら、大平氏は民主主義の厳密な定義について尋ね、どのような条件のもとで政治的チャンピオンが現れ、巨大インフラプロジェクトを推進できるのかという点を深く掘り下げました。そして最後に、ウガンダの専門家である大平氏は、長期政権が続く半独裁国家として知られる同国で、民主主義が機能していない現政権下でも、中国による鉄道プロジェクトを成功させることが可能かどうかという点に関心を寄せました。
これらの疑問点にWang博士が簡単に答えた後、観客からの質問を受ける時間が設けられました。質疑応答では、中国の出資によるアフリカの多様なインフラプロジェクトの分析、アフリカへの様々な資金提供国を比較した調査、中国とアフリカ諸国との二国間関係がインフラプロジェクトの結果に及ぼす影響などがトピックに上がり、Wang博士が回答しました。