SDGs Seminar / Informality in Cities: Perspectives from Asia

  • 日程:
    2020年08月28日(金)
  • 時間:
    9:00-10:40
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、事務局より招待URLをお送りします
  • 題目:

    Informality in Cities: Perspectives from Asia

  • 言語:

    英語

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニット

  • 登録方法:

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概要

Depending on one’s methodological perspective, informality may evoke multiple meanings. In discussions on cities, informality presents a powerful lens to make sense of everyday life, politics, economies, infrastructures, and planning, to name a few. As well, it allows for exploring the concepts of governance, state-society boundaries, sovereignty, and strategies of survival. While informality has been studied within cities in the Global South and through postcolonial histories, it is being included in other contexts as well. Perspectives from cities in Asia have a lot to contribute to these conversations. Drawing from their research on informality in cities in China, India,
Thailand, and the Philippines, our speakers share their insights.

講演者

Yue Zhang イリノイ大学シカゴ校准教授
日下 渉 名古屋大学准教授
遠藤 環 埼玉大学准教授

司会:ナジア フサイン 未来ビジョン研究センター特任助教

SDGsユニットが主催し、ナジア・フサイン助教が司会を務めた本セミナーにおいて、ユエ・チャンイリノイ大学シカゴ校准教授、日下渉名古屋大学准教授、遠藤環埼玉大学准教授は、都市化の最前線にあるアジアにおいて都市が直面する課題について議論しました。本セミナーは、都市化が進む世界におけるガバナンスや生活の不安定化といった課題を取り上げる4回連続セミナーの第2回にあたります。

「都市化の多様性:中国とインドのインフォーマル居住の視点から」と題する講演においてチャン准教授は、急速な都市が進展する世界の中で、グローバル・サウスにおける特徴的な現象は、政府の統治や規制を超えたインフォーマル居住が拡大していることであると主張しました。これは深刻な政策上の問題であり、都市の構成を理解する上で重要な点でもあります。
広州の都市内集落とムンバイの不法住宅という2つのタイプのインフォーマル居住の形成、統治、再開発についてチャン准教授はこう論じました。中国の地方政府による選択的な土地収用の結果として、拡大した都市に農村が囲まれるという飛び地の形で都市内集落が出来あがりました。集落の住民の多くは、集落内に戸籍(hukou)を持たない移民労働者で、こうした不法居住者の住宅は、私有地や公有地を不法占拠し、自作されたものです。こうした居住者のコミュニティは、政治政党の票田になることで、サービスと保護を得ています。広州とムンバイはここ数十年の間に、インフォーマル居住地を再開発するプロジェクトを開始しました。両市の再開発のメカニズムは異なるが、どちらもそのプロセスには困難を抱えています。
両市を比較すると、インフォーマリティは空間構成、土地所有権、日常的なガバナンスの面で大きく異なることが観察できます。往々にしてインフォーマリティは、低開発および国家の能力の低さのあらわれとみなされるが、国家とインフォーマリティの間には共生関係があります。インフォーマリティは国家政策の意図せざる結果です。しかし、国家はインフォーマル・セクターと積極的に交渉し、統治目的のために利用している。包括的な開発をともなわない、再開発への国家の介入とインフォーマル居住の公式化は、新たな空間的社会的不平等を生み出すものです。都市化は直線的なプロセスで進むものではないことが、研究によって明らかにされています。最後に、グローバル・サウスでの都市化の流れにおいて、「都市」の定義はより広い開発目標と国家戦略の中で理解される必要があります。

「マニラ首都圏における新自由主義的な統治性:都市貧困の空間的、法的、道徳的な分断」と題する講演において日下准教授は、なぜマニラ首都圏の都市貧困層が、自分たち自身は法律に縛られない生活をしていながら、「規律」を求めるようになったのかを論じました。2000年代に行ったフィールド調査では、インフォーマル居住者や露店商が尊厳や生活権を訴えて、国家による強制立ち退きの圧力からインフォーマルな生活を守っていることが明らかになりました。しかしながら、グローバル経済による2010年代の急速な経済成長にともなって都市のインフォーマル空間の多くが壊され、郊外に再定住する貧困層が増加しています。さらに、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領による鉄拳政策と相まった「規律」論は、都市部の貧困層の大部分と共鳴しました。これは、彼の「麻薬との闘い」や厳格な感染症検疫への支持に見られます。若いインフォーマル居住者が、麻薬使用者や検疫違反者を「悪者」として「規律」の名のもとに厳罰に処することを熱心に求めていることが印象的です。
日下准教授は、国家から自立して市場原理でくらす「善良な市民」としての「規律」を人々が支持するように仕向ける新自由主義的な統治性によって、このような都市貧困層の主体性、主観性、社会性の変化が起きていると主張しました。2010年代の、改革志向の都市ガバナンスと再定住プログラムは、新自由主義的な統治性の手段であると考えられます。したがって、改革志向の参加型プログラムを通じて貧困層を組織化、市民化、再定住化させようとする、国家、民間セクター、NGOの試みは、「善良な市民」であることを宣言し、文化に忠実で、スラム生活者とは敵対する都市貧困層の間で、新しい主観性の創出を促進しました。

「岐路にある都市のインフォーマリティ?:バンコクの事例における包摂と排除のダイナミズム」と題する講演において遠藤准教授は、急速な経済成長にともなってバンコクとバンコク・メガ都市圏(Bangkok Mega Region:BMR)が、金融、生産、消費のグローバル・ハブとなり、世界中の投資家と新興富裕層を引きつけていること、他方で、インフォーマル経済と居住の拡大も続いていることを論じました。結果として2010年代から、都市では多層的な階層化が見られ、バンコク内での不平等が広がっています。加えて、近年の民間主導の開発も都市の景観を劇的に変え、この現象を加速させています。
都市の貧困層の立場で見ると、(職業か居住かの別を問わず)都市のインフォーマリティは、都市のリスクによる衝撃を緩和し、都市での生活を維持するためのニーズに柔軟に対応し、社会的上昇の機会を生み出すなど、多様な機能を提供しています。タイの労働力の大半がインフォーマル雇用の従事者であるという事実のために、社会保障の対象拡大、特に自営者への対象拡大は政策転換として行われており、それは、インフォーマル経済の労働者をフォーマルな制度に包摂する試みであると言えます。しかしながら、実際の都市ガバナンスや民間セクター主導の再開発プロジェクトを見ると、露天商や生鮮市場、スラム・コミュニティの立ち退きによってインフォーマリティは浸食されています。中間層は「近代的な美しい都市の保護」に関する対立にSNSを通じて参加し、都市のインフォーマリティに対する厳しい対応を指示しています。
遠藤准教授は、都市貧困層は確実にマクロ経済の貢献者であり、その労働なしには都市の経済が成り立たないと論じました。しかしながら、公的な制度支援が欠如しているための代替的な生存メカニズムである「インフォーマリティ」が、いまや危機に瀕しています。それは、社会的ネットワークの崩壊を招き、都市貧困層への資源配分を制限し、それによって社会階層間の対立を生じさせます。都市の再開発とガバナンスに関わる多様な関係者の利害のバランスを取ることは、住民の福祉と都市の住みやすさを守るための鍵であると言えます。