SDGsセミナーシリーズ Understanding the Nature of Governance in Cities: Perspectives from Latin America and Africa

  • 日程:
    2020年10月09日(金)
  • 時間:
    13:00-14:30
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、事務局より招待URLをお送りします
  • 題目:

    Understanding the Nature of Governance in Cities: Perspectives from Latin America and Africa

  • 言語:

    英語

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニット

  • 登録方法:

    事務局に直接参加希望の旨、ご連絡ください
    sdgs★ifi.u-tokyo.ac.jp
    (★を@に変換してください)

概要

Although typically associated with the state and formal institutions, scholarship suggests that governance is a broad concept. Instead of associating it only with the state, one could pay attention to the role of social networks and non-governmental actors who carry out the functions of governance. Still, yet, others argue that one could go beyond the state versus non-state arguments to understand governance as composed of interactions among different actors including the state. Within the context of a world where cities are key sites of change, these discussions help in understanding the urban landscape. Deregulated service provision, dynamics of organized crime and violence, and the private sector shape urban spaces in many cities. Actors engaged in governance include market actors, social networks, NGOs, government officials, politicians, armed actors, and many others.

Keeping in view this complexity, and that the world is becoming increasingly urban, this event focuses on the question: what is the nature of governance in cities in Latin America and Africa? Both regions present key sites of analysis. Latin America has long contributed to debates on cities, while Africa is at the forefront of urbanization trends. Insights from both regions are valuable for theoretical debates and policies related to governance and politics in cities.

講演者

Dr. Markus Shultze-Kraft (Georg Arnhold Senior Fellow, Georg-Eckert-Institut)

Dr. Jeffrey Paller (Assistant Professor and Program Director, University of San Francisco).

Dr. Nazia Hussain (Project Assistant Professor, IFI, University of Tokyo) :司会

SDGsユニットが主催し、ナジア・フサイン助教が司会を務めた本セミナーにおいて、マーカス・シュルツェ・クラフト氏とジェフリー・パラー氏は、ラテンアメリカとアフリカにおけるガバナンスの性質について議論しました。本セミナーは、都市化が進む世界におけるガバナンスや生活の不安定化といった課題を取り上げる4回連続セミナーの最終回にあたります。

「現代ラテンアメリカにおけるメトロポリタン・ガバナンス:crimilegalityの挑戦」と題する講演においてシュルツェ・クラフト氏は、過去50年余りの間にラテンアメリカが途方もない規模の都市化を経験したと述べました。今日、この地域の人口の80%以上が、富の創出、政治権力、コミュニケーション、科学技術の発展、文化的生活のハブである都市および巨大な首都圏に暮らしています。メキシコシティ、ブエノスアイレス、サンパウロ、ボゴタ、リマ、リオデジャネイロという、世界の巨大都市のうちの6つがラテンアメリカにあり、その他の中心都市も土地の開拓と高い人口増加率によって成長し続けています。ラテンアメリカのGDPの60%以上が都市で生み出されています。一方で、ラテンアメリカの都市と首都圏は、貧困、不平等、環境破壊、暴力的(国家)犯罪の温床にもなっています。大都市の行政構造は往々にして肥大化し、あいまいで水平的な協力関係がありません。誰が何に責任を持ち、誰に対して説明責任を有しているのかが不明です。

ラテンアメリカの都市が直面するヤヌス神(双面神)のような状態が、都市ガバナンスと公共財および基本的なサービスの提供を信じられないほど困難な事業にしていることは、広く認識されています。都市の社会空間的な断片化、分断化、排他化の一般的なパターンは、「脆弱な都市(fragile city)」というレンズを通して分析され、新自由主義に基づくグローバル化の様々な圧力を反映していると見なされてきました。一部の研究者は、現代ラテンアメリカの大都市圏は依然として都市と見なすことができるのか、それとも、市民権、都市の流動性、公共生活への有意義な民主的参加、そして周辺化された人々の生計と言ったものがほとんど損なわれているか存在していない伝統的な都市に対する一種の対抗モデルととらえるべきなのか、という疑問を提示しています。

この地域が(再)民主化に向けた困難な挑戦を始めた1980年代から、ラテンアメリカの国および地方政府と市民社会は、政治行政および財政の地方分権化、参加型予算、公共サービスの民営化、インフラ開発、地域警備(proximity policing)、ギャング抗争の休止などの都市ガバナンス改革の最前線に立ってきました。しかしながら、この地域における都市ガバナンス改革の効果と持続可能性には疑問が提示されています。全体として、現在確認できる事実からは、効果的、効率的、合法的な都市ガバナンスはまだ道半ばであると言えます。これは、取り組んでいる課題の深刻さや、最適でもなく一貫性もない政策決定・実施の問題であるのみならず、現代ラテンアメリカにおける大都市のガバナンスそれ自体が持つ性質の問題からも説明できます。

この問題を解明する1つの方法は、ラテンアメリカの都市ガバナンスにおける(地方の)州の権威、能力、正当性の欠如に焦点を当てることです。この方法は、2000年代半ば以降、ラテンアメリカおよびグローバルサウスの他の開発途上地域の政策分析者や研究者の間で影響力を持った「脆弱性(fragility)」についての議論によって知らされてきました。ラテンアメリカの大都市や大都市圏のガバナンスに関しては、暴力的な都市犯罪、社会経済的・民族的な断片化と分断化、水平的・垂直的両方の不平等、警察の残虐行為、人権侵害といった問題における「世界のリーダー」という、この地域の不名誉な立場に多くの関心が払われてきました。2010年代半ばに表面化したオデブレヒト騒動が地域全体に衝撃を与えたことに象徴される、大規模な政治腐敗は、ラテンアメリカの大都市圏における「悪い」ガバナンスの原因であり、推進力、実現要因でもあると見なされています。

これらの見方は、ラテンアメリカにおけるガバナンスの問題を検証する上で有用ではありますが、一方で、問題の全体像を理解するには不十分です。ヨーロッパ植民地から独立したスペイン語国が大部分を占めるラテンアメリカのような中所得の開発途上地域におけるガバナンスは、独立から200年以上が経過するにもかかわらず、いまだに植民地体制の重荷を背負い、「聞きはするが従わず(obedezco, pero no cumplo)」という伝統を維持しています。つまり、ラテンアメリカ全域において、法律は認識されていても実行されないのです。その代わりにラテンアメリカでは、他の開発途上国でも往々にして見られるが特にリオグランデ川の南側で顕著な現象、”crimilegality”が見られます。

端的に言うと、現代ラテンアメリカの地方と都市の政治秩序は、犯罪と政治秩序が融合した“crimilegal” 秩序によって特徴づけられています。そのような秩序のもとでは、合法性と違法性/犯罪性の境界線があいまいになります。公共財と基本的サービスの提供を規制するという特定の目標の達成に向けて結集した組織を創出することで、国家と非国家主体の両方が、相互作用し、政治的権力を行使しているのです。こうしたcrimilegalなプロセスでは、資源は流用(誤用)され、合法的、違法/犯罪的手段の流動的な組み合わせによって秩序が(再)形成されます。crimilegalな秩序とそれが達成するcrimilegalなガバナンスは、「悪い」「腐敗した」「犯罪的な」ガバナンスという従来の分析方法よりもとらえがたいものです。ラテンアメリカの大都市ガバナンスが何をしているのかは、スケールが異なります。最終目標は、深い社会的、規範的、道徳的変化に具現化された脱crimilegal(decrimilegalisation)でなければなりません。

シュルツェ・クラフト氏の示唆に富む講演に続いて、ジェフリー・パラー氏がアフリカにおける都市化の問題について講演を行いました。「アフリカの都市化に関する論争的な政策」と題する講演においてパラー氏は、アフリカの都市化は世界でもっとも早いスピードで進んでいると述べました。過去70年間でアフリカ大陸の都市部の人口は2700万人から6億人近くにまで増加しており、2050年には9億5000万人まで増えると予想されています。都市部の住人の多くは若い世代であり、スラムのような環境下で生活しています。またアフリカの急速な都市化は新たな課題をもたらしています。他地域とは異なり、アフリカの都市化は大規模な産業化をともなわずに進行しており、その結果として都市部の生活はインフォーマル経済により支配されています。かつての植民地支配により、未だに都市計画や多くの首都には人種差別的な要素が残されており、現在でも厳しい不平等や曖昧な所有権の問題を生じさせています。しかし同時に、都市部の人口増加は、政府、指導者層、政党、住民自身にとって新たな政治的・経済的機会を提供しています。

それゆえ、アフリカの都市化は、都市空間に関する様々な主張を巻き起こす論争的な政治的なプロセスであり、秩序を形成する社会制度間の競合でもあります。プロセス、エピソード、そして人の動員に焦点をあてることで、都市部の成長にともなうダイナミックな政治闘争や、都市部の政治的発展の道筋を理解することができます。論争的な政策は、新たに生まれる脅威と機会、既存組織の社会への適用、アイデンティティの構築と再構築、革新的な形式での集団的行動、およびそれらの仲介者などの要素によって構成されるメカニズムによって展開されます。

例えば、都市化は、企業や政治エリートにとっては投資機会の創出につながりますが、伝統的権威や土着の人々が都市空間に対する先住権を改めて主張する機会にもなります。住民はNGOと新たに連携したり、政治的パトロンとの関係を築くことで、都市に関する自分たちの権利を主張する革新的な戦略を見つけるようになります。

政治的な主張の形成と発展の成果は、住民が集団的意思決定に参加したり、リーダーが自分の利益に適うプロセスを選んだりするような身近なレベルで現れます。ただし、ガバナンスの規模やタイプは、ガーナの都市アクラとアシャマンに見られるように、近接した都市の間でも異なっています。アシャマンの事例は、多様なエスニックグループのリーダーたちが自己統治のために連帯したときに何が起こるかを示してくれます。1960年代にアシャマンが不法定住地になり始めたとき、土着の土地所有者と移住者のリーダーは、都市が形成される初期の段階で土地の分配に合意していました。住民とリーダーは絶えずこの合意に関して協議を繰り返し、都市の発展のために協力してきました。一方。アクラ最大の不法占拠地となっているオールドファダマではそのようなことは起きませんでした。オールドファダマでは、日常的なポリティクスが集団的意思決定や異民族間の交流を阻害していました。短期的視野での問題解決や個人主義のポリティクスが、長期的で、貧しい人々を主体とした意思決定を追いやってしまっていました。こうしたガバナンスの欠点を乗り越えるため、持続可能な都市開発政策は、説明責任を果たすメカニズムの強化、インフォーマルな定住の法的承認、現場のインフラ整備への投資に、もっと焦点を当てる必要があります。

今次セミナーの動画は、下記東大TVで視聴いただけます。ご関心があれば、ぜひこちらもご確認ください。