SDGs シンポジウム: 気候変動と水資源をめぐる国際政治のネクサス

  • 日程:
    2021年02月22日(月)
  • 時間:
    12:00-15:00
  • 会場:
    ZOOMウェビナーでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、会議前に事務局より招待URLをお送りします (2月19日送付予定)
  • 言語:

    英語
    (interprefyを使用しての英→日の同時通訳有)
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  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター SDGs協創研究ユニット

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

21世紀に入って「気候変動政治」への関心が高まり、国際政治学・国際関係論においても研究が求められる時代を迎えた。未来ビジョン研究センター(IFI) SDGs協創研究ユニットでは、グローバル・サウスの事例を取り上げながら、気候変動と水資源をめぐる国際政治のネクサスを以下の3段階で検討する研究プロジェクトを2019年度から行っている。第1に、気候変動による自然の衝撃が社会と政治にどのようなストレスをもたらすか、また、そうしたストレスがいかなる過程を経て社会の不安定化、資源獲得競争、国家の動揺、武力紛争、難民・移民などの現象を引き起こす原因となるのかを問い、気候変動政治のメカニズムを解明する。第2に、自然の脅威を前に国家、草の根社会がいかなる緩和と適応を行うかを考察し、「気候変動レジリアンス」の仮説を提示する。第3に、「気候変動安全保障」を中核とする新しい安全保障論と、国連の持続可能な開発目標(SDGs)とを連携させたグローバル・ガバナンス論を論じ、政策的検討を試みる。

本シンポジウムは、3年計画の中間地点まで来た本研究プロジェクトの内容を一般に公開し、本課題と密接に関わる研究および実務に携わる方々からのフィードバックを得ることを目的とする。同時に、IFIが気候変動安全保障に関する研究プロジェクトを実施していることを研究コミュニティに知らせることで、本課題に関する研究の活性化を図る。

プログラム
  • 12:00-12:10
    開会挨拶

    藤原 帰一 (東京大学未来ビジョン研究センター長)

  • 12:10-13:00
    パネル1:気候変動リスクの評価と対応策

    趣旨説明/司会:藤原 帰一 (東京大学未来ビジョン研究センター長)

    報告1: 城山 英明 (東京大学法学部・法学政治学研究科教授)
    Governance of Interconnected Risks – The Case of Climate Change from Transition Perspective(仮題)

    報告2: イー・クアン・ヘン (東京大学公共政策大学院教授)
    Climate Change-Conflict Nexus and National risk assessment Exercises: the UK and Singapore(仮題)

    報告3: 杉山 昌広 (東京大学未来ビジョン研究センター准教授)
    Would Solar Geoengineering Exacerbate Conflicts?(仮題)

  • 13:00-13:25
    質疑応答
  • 13:35-14:25
    パネル2:気候変動と紛争

    趣旨説明 司会: 藤原 帰一 (東京大学未来ビジョン研究センター長)

    報告1: ナジア・フサイン (東京大学未来ビジョン研究センター特任助教)
    ‘Scarcity’ in Times of Plenty: Water, Governance and Everyday Politics in Metro Manila

    報告2: 和田 毅 (東京大学総合文化研究科教授)
    Water Conflicts from a Panoramic Perspective and under a Magnifying Glass

    報告3: 華井 和代 (東京大学未来ビジョン研究センター講師)
    The Path from Climate Change to Conflicts: in Africa Sahel Region

  • 14:25-14:50
    質疑応答
  • 14:50-15:00
    閉会挨拶

    藤原 帰一 (東京大学未来ビジョン研究センター長)

その他詳細

開会あいさつ: 藤原帰一 東京大学未来ビジョン研究センター センター長

開会に際して藤原センター長は、シンポジウムの趣旨を説明しました。本研究プロジェクトの目的は、国際政治秩序にとって大きな課題であり、深刻な影響をもたらす恐れのある気候変動の問題を理解することです。気候変動は、自然科学(世界の気温上昇)と社会科学(世界の紛争)の両方に関係する問題です。水は、国際関係およびグローバルガバナンス関連の研究者の方々に積極的に参加してもらってマクロ的に研究する必要のある、重要な資源です。また、本研究プロジェクトでは、気候変動と紛争のネクサスに関して各地域の事例研究を行っています。近年、気候変動の問題に対する一般の人々の関心はより一層高まってきており、カーボン・ニュートラルは世界の主要国にとって共通の課題となっています。とくに答えを出すべき課題として挙げられるのは、急速な気候変動に伴う地球温暖化問題への取り組みにおいて、適切な対応戦略を有しているのかという点です。

パネル1「気候変動リスクの評価と対応策」

「相互に関連するリスクのガバナンス-トランジションの観点から見た気候変動」
城山英明 東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授

城山教授は、相互に関連するリスクに関して様々なステークホルダーが直面している課題とガバナンスと機関の影響力を提示し、リスク評価と対応策の経緯・方向性の説明を次のように行いました。

急性のリスクは突然発生し、深刻度は初期段階で最高レベルに達します。一方、気候変動は、発生速度は比較的ゆっくりですが、その影響は深刻です。分析枠組みを細分化することは、気候関連リスクへの対応策の一つとなります。しかし、その結果やフレーミングを受けての政治的プロセスは一様ではない可能性があります。

影響範囲の拡大について、明確な影響に対しては迅速な政策対応がとられます。逆に言えば、影響範囲の拡大によってもたらされる結果には共通している部分がありますが、その要因は気候変動だけではありません。個別の影響に関して言えば、気候変動がその一因になっている可能性はありますが、その背景にある状況の方がより重要な要因となります。フレーミングの拡大にはプラスとマイナスの両面があります。災害リスク削減と災害適応は、同様で部分的に一致する事象を対象としていますが、一体的な方法で広範にわたる効果をもたらすことは難しい場合もあります。

気候変動への政治的対策における主要アクターの観点から言うと、多層的かつ多元的なアプローチがあります。政府レベルの決定はかなり流動的になる場合もありますが、官民セクターネットワーク、例えば地方レベルや企業、金融ネットワークなどが、気候変動対策のレジリエンス発揮において重要な役割を果たしてきました。

気候変動問題への対応戦略に関して言うと、気候リスクは様々なリスクと関連しており、その対応も相互に関連しています。気候変動への対策の一つとして挙げられるのが、(それらのリスクへの対応を)相互に関連させたトランジションです。そのためトランジションの研究では、共進化の考え方が用いられています。

ガバナンスの面については、いくつかの類似点と相違点があります。(別々のリスクに対応した)トランジション戦略の要素はつながりを持っている可能性があります。プラスの面とマイナスの面がありますが、2つのトランジションは相補的である可能性があります。

対応戦略において重要なことの1つは、一致点や相補的な共進化の可能性を検討することです。

「気候変動と紛争のネクサスと国によるリスク評価の実施:英国とシンガポール」
イー・クアン・ヘン 東京大学公共政策大学院教授

ヘン教授は、気候変動と紛争リスクの潜在的ネクサスを評価するために、英国とシンガポールがどのように制度体制および政策体系を構築しているかについて、次のように考察しました。

グローバルリスクは相互に関連しており、それぞれを切り離して研究することは困難です。COVID-19の感染拡大によって、グローバルリスクが世界を方向付ける時代であり、より優れたリスクマネジメントの手法が生みだされる時代であることを改めて認識させられました。様々なグローバルリスクレポートで、気候変動は、政策アジェンダの最優先課題である実在する脅威として示されています。本プロジェクトは、気候変動と紛争について、多くの不確実性要素がある中でも、リスクと望まない結果を予測するために政府がどのように取り組むべきであるのかを示すものです。

国によるリスク評価の実施に関して既存資料からいくつか不備や欠点が示されているため、このような議論の進展に寄与すべく、本プロジェクトは英国とシンガポールの比較事例研究を行っています。英国とシンガポールは共に未来予測(フォーサイト)に関する制度において長年の実績を有しており、戦略的な不測の現象の予測に投資してきた歴史があります。予備研究結果から、タイムホライズン(対象期間)と法的義務が重要であり、それらがリスクアセスメントの実施方法を形成していくことが示唆されます。

英国とシンガポールの政府機関には現在、小規模なフューチャーズグループが配置されています。英国の政府科学庁は、全官公庁のフューチャーズツールの組み込みをサポートする フューチャーズチームを設置しています。シンガポールの戦略的未来センター(Centre for Strategic Futures: CSF)は(未来予測に関する主要スキルやツールを紹介するための)ワークショップ「FutureCraft」を実施しており、官公庁職員を対象とした「シナリオプランニング・プラス・ツールキット」も開発しています。

ヘン教授は最後に、外部専門家の情報提供とセキュリティクリアランスの余地はあるのか、また、気候変動の影響と紛争に対する影響の可能性を評価する上で地域コミュニティや初期対応者の関与を向上させるはどうすればよいのかとの、2点の問いを投げかけました。

「太陽放射改変は紛争を悪化させるのか」
杉山昌広 東京大学未来ビジョン研究センター准教授

杉山准教授は、太陽放射改変(solar radiation modification, solar geoengineering)によるリスクおよび潜在的リスク軽減に焦点を絞り、次のように考察を行いました。

世界中で 2050年の実質排出ゼロの実現に向けた取り組みが進められているが、気候科学の不確実性への対応策の1つとして挙げられるのがジオエンジニアリング(気候工学)です。これは、地球の気候システムへの大規模な介入を意味します。ジオエンジニアリングには大きく分けて太陽放射改変と二酸化炭素除去(CDR)の2つの手法があります。

ネガティブエミッション技術としても知られているCDRは、大気中の二酸化炭素濃度を低減させます。海洋鉄肥沃化もCDRの1つの形態で、光合成を促進するために海洋に鉄分を散布する方法です。

気候変動に関する政府間パネルの主要レポートでは、世界の国々が(産業革命以前を基準とし)世界の平均気温上昇を2℃より低く抑えるため、または実質排出量ゼロやカーボン・ニュートラルを実現させるために取り組むには、社会のすべての面において、広範囲にわたり大変革が必要となると指摘されています。そのため、大規模のCDRを実施する必要性がある可能性が高いのです。それらの取り組みが奏功しなかった場合、プランBが必要となります。気候変動は待ってはくれないからです。太陽放射改変が関心を呼びつつあるのはそのためです。最も議論されているのは、成層圏に微細な反射性粒子を散布して地球を冷やす手法です。

太陽放射改変などの新興技術は、潜在的リスクをはらんでいます。しかし、太陽放射改変の使用を禁止すれば排出量を削減することはできず、気候変動を引き起こすことにつながるでしょう。

さらに研究を進める必要はありますが、気候変動は紛争を悪化させることで知られています。資料では、紛争は温度と降雨量の偏差の関数で示されています。つまり太陽放射改変は、特に中規模で実施した場合、気候変動を軽減し、紛争を低減させる可能性があるということになります。

結論として、太陽放射改変は、リスクトレードオフを生じさせる新たな要因であり、考慮すべき注意点は多いものの武力紛争を低減させる可能性があります。最後に気候リスクは単独のリスクではなく、いくつものリスクが相互に関連したリスクであり、その相互関連性について研究する必要があります。

パネル1: 質疑応答

3人の発表の後、参加者からの質問に答える質疑応答の時間が設けられました。

気候変動の抑制のために世界人口抑制を政策化することは妥当か否かとの問いに、ヘン教授は、資源へのアクセスと人口増加のバランスの維持について論じた「成長の限界」の主張が思い浮かんだとしながら、産業規模の発展も気候変動に大きく寄与しており、人口増加よりもより大きな影響を与えているとの考えを示し、気候変動の問題にはすべてを解決する万能な治療薬はないとしました。

統合的なアプローチを展開する上でSDGsアプローチとの連携や協力体制が重要だと思うかとの問いに対し、城山教授は、相互に関連するリスクであれば相互に関連するメリットがもたらされる可能性があり、異なる政策目的にとってはwin winな状態となるため、気候変動対策にとっても重要になるとの考えを示しました。

また、気候変動対策およびCOVID-19への対応にワンヘルス・アプローチが重要だと思うかとの問いに対して、城山教授は、可能性の1つとしてワンヘルス・アプローチは興味深く、人の健康も自然の健康も促進させる考え方だと答えました。

コストリスク評価を行うためのマクロ経済モデルについての質問に対し、城山教授はコスト応分を議論するためには、何らかの定量化が必要との見解を示しました。コスト応分の基本的な方法は、責任所在の特定を通じた手法だと述べました。別の方法としては、能力に応じた手法を挙げました。途上国と先進国の間では、対策のコスト対応で担う役割に関して意見が対立しているとしました。

さらに杉山准教授は、研究者が様々なモデルを通じて不確実性の特徴付けに取り組んでいると説明し、不確実性は、気候変動が発生していないということを意味するものではなく、水資源と水文学に関して様々な影響があるとしました。

福祉と地球温暖化の解消のつながりについての質問対し、杉山准教授は、ウィリアム・ノードハウスの損害関数を挙げ、損害関数は通常気温上昇の関数となっており、成層圏に硫黄ガスを散布して地球温暖化を解消することによって気候変動が軽減し、それによって人々の福祉が向上していく可能性があるとしました。

パネル2:気候変動と紛争

「豊富な時代の『希少性』: マニラ首都圏における水、ガバナンスと日常の政治」
ナジア・フサイン 東京大学未来ビジョン研究センター特任助教

フサイン助教は、水危機は特にグローバルサウスの都市で社会および政治不安の一因となるのかという点について次のように考察しました。

グローバルサウスの現実は複雑であり、伝統的な国や社会の境界に対する考え方には一致せず、サービス提供者の中に政府が含まれている場合もあります。気候関連リスクや人口変動に起因した水危機も深刻な懸念事項ではあるものの、平常時でさえ水へのアクセス不足が発生しており、さらに言えば、社会的に疎外された人々にとっては水へのアクセスを持たない状態が既定路線となっている場合もあります。

これは単純そうに見えますが、各テーマ横断的な問題です。政治的生態に関する文献では「自然的」希少性の考え方に異議が示され、代わりに、希少性は政治的および経済的決定を通じで生みだされるものであると指摘しています。同様に、紛争と資源の希少性との因果関係も、紛争のミクロダイナミクス分析による議論により異論がでています。多くの都市のガバナンスの形を見れば、希少性は、単に資源の不適切な管理の観点からだけでは理解できないことが分かります。水を含めサービス提供への従事関係者が多数存在し、社会的、経済的および政治的情勢の一部となっています。つまり、政治不安が、ストレス要因への直接的な対応につながることはないのです。資源の枯渇などのストレス要因は、都市部の絶えず変化する現実と相互に作用しあっているのです。

インタビュー、フォーカスグループのディスカッション、そして都市の貧困層800世帯を対象とした調査に基づいた、マニラ首都圏の事例研究分析結果を紹介します。研究結果では、水供給が民営化されたにもかかわらず、都市部の貧困世帯の水へのアクセスは、非常に不確実で脆弱な状況であることが示されています。シンジケートや水に関する協同組合を含めた多数の関係事業者が水供給に携わっています。そこには、政治家や、様々なレベルの政府関係者、NGOも関与しています。都市部の貧困層の人々にとって、水は貴重なモノであり、質の悪い水であっても、信頼できない供給元であっても、より多くのお金を支払うのです。

2019年の水危機において、都市部の貧困層は定期的な水へのアクセスを得ることができず、水を得るための高い支払いに苦しみました。対応策としては水の配給などが行われました。しかし、コミュニティ内での不満は明らかで、個々の不満は社会的不満の領域へと移行しました。

これらのデリケートな不安要因は、希少性と政治不安の因果関係を求めるマクロ的な説明の中で見失われる可能性があります。水危機は社会および政治不安の一因となるのかという問いへの答えは、世界中で都市が水危機に直面する中で、社会および政治不安が発生する可能性のあるルートをしっかりと把握するために地域視点での分析を行うことによって見えきます。

「俯瞰的な視点からみた水紛争」
和田毅 東京大学大学院総合文化研究科教授

和田教授は、世界の水紛争のホットスポットに関する経験的データを見出すことを目的として、俯瞰的な視点から、世界の水紛争の概要を次のように説明しました。

この件に関連して興味深いデータベースを4つ取り上げます。1つ目は、国際河川流域における紛争を記録したInternational Water Event Database(国家間水関連イベントデータベース)です。このデータベースは、紛争の事例だけでなく国家間の協力行動の事例も記録しています。協力事例が多い場所が紛争のホットスポットと一致していることから、各国がただ争っているだけではなく、問題解決のために取り組んでいることが分かります。2つ目のデータベースは、国内の水紛争に関する情報を提供しているWARICC(水関連国内紛争協力データベース)です。水紛争が発生している多くの場所は国境地域だけでなく国内にあることがこのデータベースから分かります。国家間水関連イベントデータベースもWARICCも、10年以上前に収集したデータです。このようなイベントデータベースは、作成するにも更新するにも多額のコストが発生するため、最新の情報をタイムリーに更新することが難しいのです。

残りの2つのデータベースは、コストの課題を克服して、近年の水紛争に関する情報も提供しています。Pacific Instituteは、一般公開されている紛争データベースを利用して、水資源に関連した暴力的紛争に関する情報を収集しています。このデータベースは、水紛争を3つの類型に分類しています。1つ目の類型は「Casualty(被害)」であり、これは、紛争により水資源や水システムが被害を受けたイベントを示しています。意図的に生じた被害も偶発的なものも含んだ類型です。2つ目は、暴力的紛争において水資源または水システムがツールまたは武器として利用される「weapon (武器)」類型、3つ目は、水が紛争の根本原因である「trigger(トリガー)」類型です。トリガー類型の場所をみると、サヘル地域と南アジアが水問題に起因する紛争の主な発生地域であることが分かります。

最後のデータベースはGDELT(イベント・言語・論調に関するグローバルデータ)です。このデータベースは、自然言語処理とビッグデータアプローチを利用し、世界中のニュースソースをモニターし紛争の事象や協力の事例をリアルタイムで検知しています。Google BigQuery によってGDELTから水関連の紛争のデータを取り出し、世界地図上に示しました。この分析結果が水紛争の実際の分布を示しているのか、それとも記事数の分布をより反映しているのか、また、自動コード化作業の精度はどの程度なのかなどの問題があるため、結果の解釈は難しいのですが、少なくとも、この科研費プロジェクトのメンバーが担っている水紛争の事例研究の場所が、GDELTで検知された主要なホットスポットに含まれていることを確認できたことは、このプロジェクトにとっても重要であると思います。

「気候変動から紛争への経路:アフリカ・サヘル地域を事例として」
華井和代 東京大学未来ビジョン研究センター講師

華井講師は、特にサヘル地域の脆弱な人々の生活に影響を与えている気候変動の問題について、次のように考察しました。

アフリカ・サヘル地域は、気温の上昇、降水パターンの変化、洪水や干ばつなどの異常気象が発生と言った気候変動の影響を受けると同時に、貧困と紛争にもさいなまれています。。アフリカ諸国は天水農業に大きく依存しているため、気温や降水パターンの変化は生活に深刻な影響を与えるのです。

アフリカにおける紛争と気温の間につながりがあると主張する研究者グループがいる一方で別の研究者グループは、紛争データと同時期の気象の統計データを比較しただけでは気候変動が紛争を発生あるいは継続させる主要因だとは断定できないと指摘しています。そこで問題となるのが、気候変動やその他の要因が、アフリカの紛争を引き起こすメカニズムをどのように構築しているのかという点です。

事例研究として、気温と降雨パターンの変化が食糧生産に深刻な影響をもたらしているブルキナファソの事例を挙げます。

ブルキナファソは多民族社会であり、3つのタイプの紛争に直面しています。
第1に、最も発生頻度の高い紛争は、農耕民と牧畜民のコミュニティ間の紛争です。1960年の独立以降、人口増加によって土壌が劣化したうえに、乾季が暑く長くなっていることから農耕地や牧草地の不足が生じました。さらに、牧畜民の家畜も増えているため、過放牧の状態となっています。その結果、農耕民と牧畜民の間で土地と水をめぐる紛争が増加しました。
第2に、サヘルの乾燥化にともなう移住問題は、往々にして移民ともとからの住民との間の対立を高める要因となってきました。これらの対立は、環境変化による影響を緩和する適切な政策や、人々の間の利害対立を仲裁する法的な解決策が欠如していることによって、コミュニティ間の紛争へと発展するリスクを生じさせます。。
第3に、干ばつや蝗害などの自然災害に政府が適切に対応をできなかったことから不満を招き、遊牧民の独立闘争を誘発したという国レベルでの紛争です。

ブルキナファソ、マリ、ニジェールのサヘル地域の3カ国の場合、政府のガバナンスの問題、農耕民と牧畜民の対立、トゥアレグの反乱、イスラム武装勢力の勢力拡大などの問題の相互関係を分析することが、紛争の要因を理解する上で重要になってきます。気候変動や環境の悪化、自然災害、また、、国際援助がそれらの関係性にどのように影響するのかについても分析が必要です。

パネル2: 質疑応答

水供給について民間企業でも十分役割を果たすことは可能であると思うかとの問いに対しフサイン助教は、官民双方の事業者の力を連携させる政策のような中道の道を採るべきではないかと答えました。

河川の汚染が湾の魚介類の大量死につながった事例に関する問いに、和田教授は、被害、武器、トリガーのどの類型の水紛争においてもそのような事例が生じる可能性があると答えました。

サバクトビバッタの大量発生の理由を尋ねる問いに対し、華井講師は、半乾燥地域での豪雨や乾燥化などの環境変化が影響しており、蝗害は環境問題の一部であるととらえられると答えました。

中南米地域の水紛争問題の特性についての問いに対し、和田教授は、中南米において水問題は自然資源管理とネオリベラリズムとの関係の問題と密接に関連している傾向が強いのではないかと説明しました。

科研プロジェクトメンバーである竹中教授が、南アジアの事例研究を発表してもらうために、プロジェクトメンバーである永野氏とチョータニ氏を議論に招きました。

水をめぐる政治の観点から、永野氏が、気候変動と水をめぐる政治がインド・パキスタン情勢のリスク険要因となっており、遠くない将来に深刻な紛争を引き起こす恐れがあると指摘しました。

中東を担当する科研プロジェクトメンバーの錦田准教授は、政府と民間セクターの役割の分担が重要であるとし、民間セクターの主体が水の供給にプラスとなる貢献をしておらず、実際には水の不足を利用し利益を得ているのだと説明しました。

閉会あいさつ: 藤原帰一 東京大学未来ビジョン研究センターセンター長

閉会に際し、藤原センター長は次のように総括しました。

パネル1では、リスクガバナンスに関するマクロ的アプローチについて、パネル2では、水資源、そしてその水資源がどのように紛争に関係しているのかという点についてをテーマとして取り上げました。皮肉なことに、持続可能な開発目標(SDGs)では、市民社会と信頼性の高いガバナンスの役割に重点が置かれている一方で、民間企業にも社会的責任を果たし積極的な貢献を行うよう求めています。

最適なアプローチは、紛争に拍車をかける恐れがある一方、緩和させることも可能な構造的要因として気候変動を研究していくことでしょう。さらに、モノの社会的配分の問題は、構造的条件とは異なるフレームでとらえられ、プロセスも多面的であり、解釈も多様でしょう。それらの要素を紛争に関する包括的な理論にまとめることができるか否かは、議論の余地の大きい問題です。

Panel1-1: 気候変動リスクの評価と対応策(報告)

Panel1-2: 気候変動リスクの評価と対応策(質疑応答)

Panel2-1: 気候変動と紛争(報告)

Panel2-2: 気候変動と紛争(質疑応答)