Complex Challenges in an Urban World (ワークショップ シリーズ-2)

  • 日程:
    2021年03月25日(木)
  • 時間:
    9:00-10:45 a.m. JST
  • 会場:
    ZOOMウェビナーでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、会議前に事務局より招待URLをお送りします
  • 題目:

    Complex Challenges in an Urban World (Workshop Series-2)

  • 言語:

    英語
    (interprefyを使用しての英日の同時通訳有)
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  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター SDGs協創研究ユニット

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

シカゴ学派からロサンゼルス学派、都市をグローバルネットワーク内の結節点としてとらえる議論、ポストコロニアルの視点まで、多様な都市理論が、「都市」を構成する概念や、人々が「都市」という概念で意味する対象についての批判的な検討を行ってきました。その議論は様々な形で変化し続ける「都市」という社会的空間が持つダイナミックな性質について、理解を深めることに寄与しています。

これらの議論に基づいて本研究会は、変化をとらえるレンズとしてだけではなく、変化が起きるアリーナとして、都市空間がどのように機能しているかを探ります。過去から続いてきた社会的、政治的、経済的プロセスは、気候変動にともなうリスクや、国内外への移住、感染症の拡大、国境を越えた犯罪ネットワークなどと相互作用し、ますます都市化する世界において複雑な課題を構成しています。

2部構成の2回目となる今回の研究会では、4名の研究者を招いてこれらの課題に関する理解を深めます。以下のフライヤーをご覧いただき、ぜひご参加ください。

講演者

Prof. Kazuya Nakamizo (Professor, Graduate School of Asian and African Area Studies, Kyoto University)
‘COVID-19 and Migration Crisis: Some Reflections on Urbanization in India’

Prof. Louise Shelley (Hirst Chair and University Professor, Director of Terrorism, Transnational Crime and Corruption Center (TraCCC), George Mason University)
‘Urban Environments and Transnational Crime’

Prof. Chiharu Takenaka (Professor, Graduate School of Law and Politics, Rikkyo University)
‘Politics of the Growing Cities: A Sketch from Indian History’

Prof. Yue Zhang (Associate Professor and Director of Graduate Studies Political Science, University of Illinois at Chicago)
‘The Rise of Urban Sovereignty: Sanctuary Cities and Global Migration Governance’

=Moderator=
Prof. Kiichi Fujiwara (Professor, Graduate Schools of Law and Politics / Director, the Institute for Future (IFI), University of Tokyo)

Dr. Nazia Hussain (Project Assistant Professor, Institute for Future Initiatives (IFI), University of Tokyo)

東京大学未来ビジョン研究センターが2回にわたり実施する研究ワークショップ「Complex Challenges in an Urban World」の第2回では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックがもたらした難局を含めて、世界各国の都市が直面している様々な課題について議論が行われました。

開会に際して藤原教授は、都市化が進む世界で起きる犯罪や暴力、ガバナンスの問題、そして潜在的な不安が引き起こす抽象的な課題と実世界の現実の課題の両方に注視しなければならないと述べました。多くの人が流入する都市空間は絶えず変化しており、その中でどのような有害事象が起きているかを分類すること自体がますます難しくなってきています。加害者が国や政治権力を持つ者である場合もあれば、一般市民のこともあります。都市空間での暴力に共通する課題を認識して解決するためには、分野横断的な議論が欠かせないと藤原教授は強調しました。

続いてフサイン特任助教は、現在の都市を取り巻く状況を簡潔に説明しました。都市は、独立した地域限定のシステムではなく、むしろ個人やそれぞれの人が持つ多様な考え、資金、文化、様々な集団、そして政府が出会い、交流することで日常が形作られる場であると指摘しました。一般市民の日々の社会活動から自治体や政府の政治的な判断まで、様々な文脈が共存しながら、なおかつパンデミックや気候変動リスク、大規模な人の移動といったグローバルな動向にもさらされているような場で、その中では複雑なストレスが相互作用しているとしました。こうしたストレスが都市空間の形成にどう影響しているかを理解するためには、藤原教授と同様、分野横断的な研究の重要性を主張しました。

都市環境と国境を越えた犯罪
ルイス・シェリー教授は、多数の具体例を挙げながら、都市環境が正当な経済活動と犯罪経済の両方の中心地として存続してきたことを示しました。歴史的に見て、都市の港は国境を越えた犯罪の重要拠点として利用され、例えばパキスタンの最大都市カラチは、アヘン戦争の時にはイギリスの商人が中国にアヘンを輸出するための拠点として利用されていました。
犯罪は世界中で起きていますが、特に都市部が組織化された犯罪の拠点になるのは、人の流入があることが1つの大きな理由だとシェリー教授は分析しました。地方から移動してきた人たちの受け皿として、都市では闇経済が発展します。また、シチリアのマフィアが米国に来たように、犯罪的サブカルチャーに慣れ親しんできた海外からの移民も都市には入ってきます。地域によっては、こうした犯罪グループがガバナンスの一端を担うようになります。例えばメキシコのグアダラハラ市では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで打撃を受けた住人に麻薬カルテルが救援物資を配り、その活動の様子を記録した画像や映像をカルテルがウェブ上で公開して宣伝に利用するということもありました。

最近の新たな傾向として、都市から地方への人の移動が目に付くようになってきたとシェリー教授は指摘しました。紛争や気候変動、都市と地方の間にある経済的不均衡などによって、都市からの人の流出が進みます。こうした新しいタイプの移住者は、犯罪グループに勧誘されて犯罪に加担するようになりやすいとされています。特に新型コロナウイルス感染症がもたらした困難な状況の中では、犯罪組織が地域社会の中で存在感を高めやすく、また個人の立場からしてもこうした犯罪組織への加入が社会的・経済的流動性を獲得するための手段になりうるという背景を説明しました。

発表の最後に、シェリー教授は組織的な犯罪に目を向けることの重要性を強調しました。都市で犯罪に手を染めるギャングは映画や小説の登場人物であるだけではなく、一般市民に今も現実で活動している存在として認識されている状況だと指摘しました。

新型コロナウイルス感染症と人の移動がもたらす危機––インドの都市化についての考察
2人目の登壇者の中溝和弥教授は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって労働者が一斉に移動するという事態が起きたインドに焦点を当てて、都市化の問題について分析しました。インド国内では1991年の経済自由化以降、出稼ぎのために移動する労働者が増加し、2020年にその総数が60億人にまで膨らんだとされています。そして2020年3月24日、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐためにインド政府が唐突に全土のロックダウンを宣言した際には、約4億人もの労働者が打撃を受けました。5月になると、失職や収入減の不安に駆られた約1億400万人もの出稼ぎ労働者が都市部から出身地を目指して一斉に移動し始め、これまでとは逆向きの都市部からの大規模な人の流出が起きました。

こうした大規模な人の移動がもたらす混乱を緩和するために、交通網の整備や住宅の供給などの政策が実施されましたが、不十分でかつ非効率的なものでした。地方部では失業率が上がって貧困率も悪化し、社会不安が広まってしまいました。また、これらの政策は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大対策としても失敗でした。出身地を目指す労働者で混み合っていた鉄道車両でウイルスが感染を広げ、労働者が地元にウイルスを持ち込むことになってしまいました。これまで多くの労働者を都市部に送り出してきたビハール州では、帰ってきた人の約4分の1が新型コロナウイルスに感染していたと言います。

感染症対策に失敗したにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症の混乱が起きた後の初の大規模選挙となった2020年のビハール州議会選挙では、ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党が独立後初めて与党連合の中で多数派になる躍進を見せました。中溝教授らのチームが2020年にビハール州で実施したアンケート調査によると、回答した193人の労働者は新型コロナウイルス感染症対策として実施された政策を強く支持していることが明らかになりました。また、労働者らが他の政党よりもインド人民党を支持していることも判明しました。この予想外の結果は、首相のこれまでの失策を責めるのではなく、これから強いリーダーシップが発揮される可能性に期待する投票者の心情が反映された結果として捉えることができる、と中溝教授は解説しました。一方で、通常であれば出稼ぎ労働者が選挙のたびに出身地に戻って投票することは難しく、こうした民主的な決定の過程から出稼ぎ労働者がそもそも除外されてしまっている可能性があるとも指摘しました。都市研究で考えていかなければならない重要な課題として、出稼ぎ労働者の問題を改めて提起して発表を締めくくりました。

都市の主権確立:聖域都市と国際的な移民のガバナンス
3番目の発表者のユエ・ジャン准教授は、国際的な移民問題に関連して都市の影響力が特に強まってきていること、合わせて都市と国の間の対立が深まっていることについて話しました。国際移民の増加スピードは、世界の人口増加のスピードを上回り続けています(全世界の移民の80%は都市で暮らしています)。例外的、もしくは不法滞在の移民も都市部に滞在しており、こうした移民たちを支援するための国際的な取り決めはありますが、法的効力はありません。移民問題に最初に向き合うことになる都市は、人道的な見地に立ち、また、いずれ移民たちが地域の経済的な発展に貢献してくれることを期待して、例えば聖域都市(sanctuary city)になるなど通常は移民を受け入れる方向の政策を選びます。その一方で国は、安全保障上の懸念やネオリベラリズムのもとでの福祉国家の後退、そのほかの政治的な理由で厳しい移民政策をとることが多くなります。そのため、国際移民のガバナンスにおいて都市の存在感はますます強まっていて、移民や市民権に関連して国家の主権に異議を唱えるまでになってきているとしました。

聖域都市というのは基本的には「都市への権利」を不法滞在している移民にも拡張し、彼らを保護する場所です。サンフランシスコが1985年に最初の聖域都市になってから以降、全世界の186カ所の聖域都市が出現しました。例えばトルコのカジアンテプは最近聖域都市になり、EUの支援を受けて移民のための公的施設を建設し、さらに一般市民にもこれらの施設を開放しました。人口が増加し、全市民に提供される福祉サービスのレベルが向上したことで、カジアンテプは発展し続けています。市民権というものの定義が、かつての伝統的で型にはまったものから、都市の実情に合わせた新しいものへと変化している例だとジャン教授は指摘しました。

これらの聖域都市は、互いに知見や成功事例を共有し始めています。ネットワークで繋がった都市は、移民に関する国内外の政治的な議論の方向性にも影響を与えるまでになってきています。都市が自治権を主張するようになっているため、都市と国家の間には対立もありますが、グローバル化が進む現代社会の中では主権というものの性質が変化しつつあります。発表の締めくくりにジャン准教授は、国際移民のガバナンスのより良い形を追究するために、研究者や政策立案者らが地域や国という枠組みに捉われずに考え、連携することの重要性を強調しました。

拡大する都市の政治:インドの歴史から
最後の登壇者となった竹中千春教授は、近年のインドの歴史を辿りながら、新たな政治運動を生み出す場としての都市について発表しました。中核都市の基本的な役割には、政治の舞台になること、文化のハブになること、都市住民の社会を形成すること、そして経済の中心になることと主に4つあるとしました。19世紀の植民地港市ボンベイも政治の舞台、経済の中心、そして文化のハブとして出発しました。これらの役割があるため、都市ではフォーマル/合法的な勢力と、インフォーマル/非合法的な勢力がぶつかり合い、新たな運動が起きてきたと竹中教授は指摘しました。ボンベイでもグリーン紡績工場が稼働し始めた後、労働組合が市内で作られるようになりました。最初のインド国民会議が開催された時、ボンベイではガンディー主義運動の「塩の行進」の一環で大規模デモが展開されました。1947年のインドパキスタン分離独立後は、難民が都市部を目指して移動しました。また、1966年に設立された右派のマラータ民族主義団体シヴ・セーナも、指導者バール・タッカレーが都市で一般聴衆に演説で呼び掛けたことがきっかけとなって運動が始まりました。

最近の都市はテロリストらの攻撃対象となり、人が密集していて感染症対策が不十分な都市のスラム街は新型コロナウイルス感染症流行の打撃を特に受けています。グローバリゼーション、国民国家、そして民主主義のどれもがかつてないほど危機に瀕している現在、都市の存在感はますます高まっています。こうした流れの中で、都市は自らを取り囲む状況を再確認し、グローバル市民社会をどう追求していくべきか改めて考える必要があると竹中教授は主張しました。また、竹中教授はこれまでガンディーを研究する中で得た、ガンディーが移民の政治問題を理解できる「グローバルな旅行者」だったという気付きを紹介し、ガンディーの思想が今日においてなお一層重要な示唆を与えてくれるとしました。

以上のプレゼンテーションに続き、パネリストと参加者の間で充実した議論が交わされました。

=Workshop Series-2 Part1=

=Workshop Series-2 Part2=