• 論文

    杉山昌広 未来ビジョン研究センター教授

杉山昌広教授らの研究論文がCommunications Earth & Environmentに掲載されました

東京大学、早稲田大学、名古屋大学の研究グループは、「Perceived feasibility and potential barriers of a net-zero system transition among Japanese experts (日本の専門家が認識するネット・ゼロ・システム移行の実現可能性と潜在的障壁)」と題する論文を発表しました。
この論文は、日本をはじめとする世界の政策課題の一つである温室効果ガス排出量ネット・ゼロ(一般的にカーボンニュートラルとも呼ばれます)が実現可能かどうかを調査するための科学的アプローチを提案するものです。

これまでの研究では、脱炭素移行の実現可能性は、主に技術経済的な側面に焦点を当てた評価に基づいて議論されてきており、国の状況や地域の社会文化的特徴など、より広範な文脈を考慮することはほとんどありませんでした。本研究では、これらを考慮可能な新しい評価フレームワークを提案するとともに、提案したフレームワーク用いて工学・社会科学・理学等の様々な分野で気候変動問題を研究している日本国内の100人以上の専門家を対象に、サーベイ調査を行いました。調査の結果、多くの専門家が日本の2050年ネット・ゼロ目標を望ましいと評価した一方で、その実現可能性を33〜66%の確率と認識していることがわかりました(図1)。研究者の専門による認識の差を分析した結果、技術経済的な評価を中心的に実施してきた研究者(統合評価モデル研究者や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書の著者)とそれ以外の研究者の間で、実現可能性評価の分布(すなわち、実現可能性の認識)が異なっていることがわかりました。この結果から、研究コミュニティ内、および、研究コミュニティ間で、ネット・ゼロ目標の実現可能性について、知見や認識を共有・検討する機会を増やすことが望ましいと考えられます。加えて、ネット・ゼロ・システム移行の実現可能性に影響を与える障壁を調査した結果、主要な障壁となりうる要因として、国家戦略の不足やクリーンエネルギー供給の限界など、日本特有の国情を反映した障壁が特定されました(図2)。

図1:認識されている日本の2050年の気候変動緩和目標の実現可能性

結果は、2050年気候変動緩和目標(80%、90%、100%、110%削減)と回答者のタイプ(全回答者、統合評価モデル研究者やIPCC報告書の著者、その他の研究者)別に提示されている。


図2:22個の潜在的障壁のリスク

それぞれのリスクは、認識されている影響の大きさと障壁が生じうる確率の積で算出されている。図中、黒点は個別の回答を、箱ひげ図は分布の概要を示す。箱ひげ図の垂線は、左から、25パーセンタイル値、50パーセンタイル値(中央値)、75パーセンタイル値をそれぞれ意味する。箱ひげ図のひげは、25パーセンタイルと75パーセンタイルから、四分位数範囲(IQR。75パーセンタイル値と25パーセンタイル値の差)の1.5倍を上下限値として示している。箱の色は、著者らの評価に基づく、各潜在的障壁の定量分析の難易度を意味する。

タイトル:


Perceived feasibility and potential barriers of a net-zero system transition among Japanese experts

共同研究者:


Yiyi Ju, Masahiro Sugiyama & Hiroto Shiraki

ジャーナル:


Communications Earth & Environment from the publisher Springer Nature
https://doi.org/10.1038/s43247-023-01079-8

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東京大学未来ビジョン研究センター
教授 杉山 昌広
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/people/sugiyama-masahiro/