• 論文

    東出 紀之 工学系研究科博士課程
    坂田 一郎 工学系研究科教授

坂田一郎教授らの研究論文がScientific Reportsに掲載されました

科学者のキャリアには、質の高い研究成果が連続する「Hot streak(連続成功期)」があることが知られています。その代表例が、アインシュタインが4つの革新的論文を発表した1905年の「奇跡の年」です。この現象は、科学者の創造性の背後にあるメカニズムを理解する鍵となります。

坂田教授らのグループは、全学術分野を対象とした大規模論文データの分析により、科学者のキャリアにおける「Mid-career pitfall(中期キャリアの落とし穴)」という重要な現象を発見しました。研究の連続的な成功は科学者キャリアの初期と後期に集中し、中期にはその頻度が顕著に低下することがわかりました。なお、この傾向は、中年世代の危機と呼ばれる、人生における主観的幸福度の低下と一致しています。

この現象の背景には、科学者のキャリアステージ特有の構造的な課題があると考えられます。連続成功期の論文の詳細を調査したところ、研究キャリアの初期は少人数間の密接な交流、後期は大規模チームによる大型プロジェクトが連続的な成功を支えることがわかりました。つまり、中期研究者はこうした人的資源の確保が困難となっていることが示唆されています。実際、キャリア中期では研究者は様々な責務に直面し、研究活動が停滞しがちであることが知られています[1]。学会運営、学生指導、外部資金獲得、委員会など、研究以外の職務負担が急増し、研究時間が劣化することで、創造的な研究活動が制限されてしまうことが、この現象の要因となっている可能性があります。

にもかかわらず、現状では、世界の科学技術政策や研究機関の資源配分において、「中期研究者」に焦点を当てた支援策が不足しています。キャリアの中期は、研究の内容面でも、研究者が実績と土台を築いた上で研究の幅を広げていく重要なステージであり、今日、新学術領域の開拓や課題解決型研究などで重要性が増している異分野融合研究に挑戦するのにも適した時期だと考えられます。プロフェッショナルなサポートスタッフの確保・育成など、中期キャリア研究者への効果的な支援体制の構築は、科学の画期的な発展を実現するために不可欠といえるでしょう。

[1] Gould, J. Muddle of the middle: Why mid-career scientists feel neglected. https://www.nature.com/articles/d41586-022-02780-y (2022)

タイトル:


Mid-career pitfall of consecutive success in science

共同研究者:


Noriyuki Higashide, Takahiro Miura, Yuta Tomokiyo, Kimitaka Asatani & Ichiro Sakata

ジャーナル:


Scientific Reports 14, Article number: 28172(2024)
https://doi.org/10.1038/s41598-024-77206-y

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東京大学大学院工学系研究科 教授
未来ビジョン研究センター 副センター長
坂田 一郎
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/people/sakata-ichiro/