• 荒井 邦彦 未来ビジョン研究センター客員研究員
    正林 真之 未来ビジョン研究センター客員研究員
    坂田 一郎 工学系研究科教授

社会イノベーションに貢献する「知財データ駆動型のM&A候補企業探索(マッチング)システム」の開発について

1990年代末以降、バブル経済崩壊後の経済不況の中で、企業が保有する経営資源の再編を加速するために、株式や事業の譲渡、分割・合併などの企業の組織再編制度やそれに対応した法人税制の整備が急速に進められました。こうした社会システムの整備により、企業は、M&Aに関して多様な手段を手にすることになりました。その結果、M&Aの件数は、急増し、現在では、年間3,000件を超えるまでになっています。また、M&Aは、大企業や中堅企業の経営資源の再編だけでなく、スタートアップの出口(EXIT)や中小企業の事業承継の手段としても重要視されるようになっています。

インテリジェント・エイジと呼ばれる時代に入り、AI・デジタルのイノベーションの横串としての役割が高まっています。ますます複雑化する社会的課題を解決する社会イノベーションを進めて行くためには、AI・デジタルとフィジカル(例えば、「秘伝のたれ」と言われる独自の技術・技能を持つ製造業企業)の斬新な融合など、これまでにない経営資源の組み合わせが求められます。また、機動力のあるスタートアップや潜在的な価値を秘める中小企業と大企業との間でのオープンイノベーションの展開も必要となっています。このため、M&Aという手法に対し、これまでのような事業的に距離の近い関係の企業同士の提携や既存の経営資源の組み合わせに沿った結合だけでなく、より多様なタイプの資源の結合の手段となることが期待されています。

こうした新しい社会・産業のデマンドに対応し、M&Aをより幅広く支援することを目的として、本学のチームと、知財マネジメント、M&A、スタートアップに精通した専門家が共同をして開発を進めてきた「知財データ駆動型のM&A候補企業探索(マッチング)システム」が完成しました。従来は把握が困難だった技術的シナジーを起点としたM&A候補企業を客観的データから抽出できるようになり、譲受企業・譲渡企業双方のM&A戦略を飛躍的に拡張できるものとなっています。

本システムは、企業が保有する技術ノウハウを反映した特許情報を基礎データとし、

  1. 特許間の引用関係やIPC類似度を用いたネットワーク解析
  2. クラスタリングによる技術距離の定量化
  3. 市場・競合情報の重ね合わせ

という三段階で企業間の技術的関連性を可視化します。特に、膨大な特許データを用い、特許間の引用関係に基づいた企業間の技術的近接性や事業補完性を評価する知財データ駆動型AIモデルの開発が技術的中核となっています。本システムは、これまで専門家が担当していた候補企業の技術的な評価、潜在的なシナジー評価を代替し、特許に基づいた網羅的なM&A候補企業の選定を実現する可能性を有しています。

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東京大学大学院工学系研究科 教授
未来ビジョン研究センター 副センター長
坂田 一郎
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/people/sakata-ichiro/