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古月 文志 未来ビジョン研究センター客員教授
坂田 一郎 工学系研究科教授
ナノカーボン・ナノセルロース複合技術を用いた炭素繊維強化複合材料に関する米国特許を取得
古月 文志 未来ビジョン研究センター客員教授 坂田 一郎 工学系研究科教授
-グラフェン酸化物とTEMPO酸化ナノセルロースの融合により、低コスト・高強度CFRPの社会実装へ前進-
発表のポイント
- 国立大学法人東京大学が出願人となる「炭素繊維強化複合材料」(Carbon Fiber Reinforced Composite Material)に関する発明が、2025年12月23日付で米国特許として登録された(米国特許第12,503,569号)。
- 本発明は、グラフェン酸化物とナノセルロースの複合体(ナノカーボン/ナノセルロース複合体)を不飽和ポリエステル樹脂に分散させることで、炭素繊維への特殊な前処理を必要とせず、優れた機械的特性を有する炭素繊維強化複合材料(CFRP)を低コストで実現する技術である。
- 本技術は、東京大学未来ビジョン研究センターの古月文志客員教授らが長年取り組んできたナノカーボン材料・ナノセルロース材料に関する基礎研究の成果を、構造材料分野へ社会実装する取り組みの重要な一歩となるものである。
概要
国立大学法人東京大学を出願人とする炭素繊維強化複合材料に関する発明について、2025年12月23日付で米国特許商標庁(USPTO)より特許が付与されました。
本特許(米国特許第12,503,569号、発明の名称:Carbon Fiber Reinforced Composite Material)は、ナノカーボン材料とナノセルロース材料を組み合わせた独自の複合体を用いて、炭素繊維強化複合材料(CFRP)の機械的強度を大幅に向上させる技術に関するものです。
研究の背景
炭素繊維強化複合材料(CFRP)は、その高い比強度・比剛性から、航空機、自動車、ロボットなど多様な分野で構造材料として注目されています。一方で、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着性の向上には、炭素繊維への前処理工程が必要となる場合が多く、これが製造コストの上昇や炭素繊維自体の強度低下を招くという課題がありました。
東京大学未来ビジョン研究センターの古月文志客員教授は、ナノカーボン材料の合成・機能化研究の先駆者の一人であり、特にグラフェン酸化物の大量合成技術(Materials Letters, Vol. 109, 2013)をはじめ、カーボンナノチューブやグラフェンを用いた機能性ナノ複合体に関する広範な基礎研究を推進してきました。また、TEMPO触媒酸化セルロースナノファイバー(TEMPO酸化ナノセルロース)は、東京大学が世界に先駆けて開発したバイオベースのナノ材料であり、これらナノ素材の融合による新たな機能材料の創出は、古月客員教授の長年の研究課題でもありました。
発明の内容
本発明は、官能基により修飾されたナノカーボン(特にグラフェン酸化物)とナノセルロース(特にTEMPO酸化セルロースナノファイバー)から構成される「ナノカーボン/ナノセルロース複合体」を、不飽和ポリエステル樹脂を含む液状組成物に分散させ、これを炭素繊維と組み合わせることで、高い機械的特性を有するCFRPを得る技術です。
本技術の主な特長は以下のとおりです。
- 炭素繊維の前処理が不要 従来技術では、炭素繊維にサイジング剤を適用するための前処理工程が必要でしたが、本発明ではマトリックス樹脂側にナノカーボン/ナノセルロース複合体を分散させるため、炭素繊維への特殊な前処理を必要とせず、製造工程の簡素化とコスト削減を実現します。
- 優れた機械的特性 本発明によるCFRPは、JIS K 7164に基づく引張試験において最大点応力410 N/mm²以上、JIS K 7171に基づく三点曲げ試験において最大点応力310 N/mm²以上という高い機械的強度を達成しています。
- 破壊時の飛散抑制 本材料は、破壊時に破片が飛散することを抑制する特性も有しており、二次被害の低減が期待されます。
- 幅広い用途への適用可能性 航空機、自動車(特に電気自動車の車体)、自転車、船舶、コンテナ、ロボットなど、多様な分野への応用が見込まれます。
研究成果の社会実装に向けて
本特許の取得は、古月客員教授らが東京大学において長年にわたり蓄積してきたナノカーボン材料科学およびナノセルロース材料科学に関する基礎研究の成果が、構造材料という実用分野において知的財産として結実したものであり、その社会実装に向けた重要なマイルストーンです。
東京大学未来ビジョン研究センターは、学術研究の成果を持続可能な社会の構築に向けて実装していくことを使命としています。本成果は、カーボンニュートラル社会の実現に不可欠な軽量・高強度構造材料の低コスト化に貢献するものであり、今後、産業界との連携を通じた社会実装の加速が期待されます。
特許情報
特許番号:US 12,503,569 B2
発明の名称:Carbon Fiber Reinforced Composite Material(炭素繊維強化複合材料)
登録日:2025年12月23日
出願日:2020年6月23日(国際出願日)/2022年1月31日(米国移行日)
出願番号:17/631,795
出願人:国立大学法人 東京大学 ほか
発明者:Bunshi Fugetsu(古月文志)、Ichiro Sakata(坂田一郎) ほか
権利満了日:2040年6月23日(特許期間調整を含む場合はさらに延長)
関連する研究業績
- L. Sun, B. Fugetsu, “Mass production of graphene oxide from expanded graphite,” Materials Letters, Vol. 109, pp. 207–210, 2013.
- 古月文志客員教授らによるナノカーボン/ナノセルロース複合体に関する一連の研究(東京大学未来ビジョン研究センター)
[用語解説]
炭素繊維強化複合材料(CFRP): 炭素繊維を強化材として樹脂(マトリックス)と複合化した材料。軽量かつ高強度・高剛性であり、航空宇宙、自動車、スポーツ用品など幅広い分野で使用されている。
グラフェン酸化物: グラフェン(炭素原子が六角形の蜂の巣状に並んだ二次元シート材料)を酸化処理することで、水酸基やカルボキシ基などの官能基を導入した材料。水への分散性が高く、他の材料との複合化が容易である。
TEMPO酸化ナノセルロース: 植物由来のセルロース繊維をTEMPO触媒を用いて酸化し、ナノスケールまで微細化したバイオベースのナノ材料。高い分散性と官能基を有し、他の材料との複合化に適する。
不飽和ポリエステル樹脂: FRP(繊維強化プラスチック)のマトリックス樹脂として広く使用される熱硬化性樹脂。コスト面で優位性があり、各種成形法に対応可能である。
お問い合わせ
東京大学未来ビジョン研究センター
客員教授 古月 文志
東京大学工学系研究科
教授 坂田 一郎
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