データヘルス研究ユニット データヘルス計画の標準化に関する研究

これまでの研究で明らかにしたこと

本研究ユニットでは、保険者がデータヘルス計画を標準的な様式で策定し、評価・見直しを支援するための「データヘルス・ポータルサイト」(https://datahealth-portal.jp/)を開発し、運営してきました。ほぼ全ての健康保険組合(以下、健保組合)が、このポータルサイトにデータヘルス計画を入力し、毎年度の事業の実績値等を登録しています。また、保険者の保健事業に関するデータ分析によって、効果的な取組に関する知見が得られています。
たとえば、33健保組合(n=258,177)を対象とした5年間のデータ分析で、メタボリックシンドロームの該当者割合が高い職場は低い職場と比較して、メタボリックシンドロームの増加リスクが1.1倍高いことを示しました。これは、職場関連の要因が従業員のメタボリックシンドロームの発症に重要な役割を果たしていること、すなわち職場環境への介入の必要性を示唆するものです(Kakinuma et al., 2019)。
特定健康診査受診者(n=43,043)を対象とした2年間のコホート分析では、健診受診後にモニタリングを実施している人の方が、実施していない人と比較して有意に継続受診割合が高く、男性においては翌年度の健診結果も改善傾向にあることを示しました。これにより、健診実施後における働きかけの重要性が示唆されました(中尾 ほか, 2020)。
また、職場での健康づくりの取組みとして、複数の企業で同じ職種(営業職)の従業員対象に歩数チャレンジの共同事業を行い、その効果検証も行いました。職場のチーム単位で健康づくりを行う際に、週1-2回のチーム内コミュニケーションや3-8人単位の小さなチームでの実施といった集団特性が効果に寄与することを示しました(Hamamatsu et al., 2020)。
一方、これまで保健事業の実態が明らかにされていなかった被扶養者に対する特定保健指導に関しても検証を始めました。保健指導の場面で、専門職による対面で健診結果を説明している保険者では、事業目標の達成度が高いことが把握されました(濱松 ほか, 2021)。これにより、職場を通じた接触ができない被扶養者に丁寧な結果説明を行い、特定保健指導に参加する動機付けを行うことは、実施率の向上にプラスとなることがわかりました。

社会課題の解決に資する貢献

これまでの保健事業では、データを用いた定量的な効果検証や効果に関する要因分析が十分に行われないまま実施される傾向にありました。本研究ユニットでは、保健事業に関するデータ分析を行い、より効果的・効率的な保健事業につながる要素を明らかにしてきました。保健事業の効果を分析・検証するには、保険者の情報、保健事業の実施内容・体制、評価指標などのデータの標準化をさらに進めることが必須です。私たちはこれらのデータを標準化し、医療保険(特に予防医学)に関する情報をデータベース化する「データヘルス・ポータルサイト」の開発・運用の取組と、蓄積されたデータを分析する研究とを並行して進めてきました。このデータベースと、得られた研究成果を社会に還元することで、持続可能な長寿社会の構築に必要な健康課題の解決に貢献しています。
なお、本研究ユニットによる「データヘルス・ポータルサイト」の保険者への適用と安定的な運用の目途がついたことから、2022年7月より東京大学から社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)に移管することとしました。これにより、高い公共性と持続可能性を保有する社会基盤としてポータルサイトを運用する仕組みが構築されました。今後、支払基金の保有するレセプト・健診データとデータヘルス計画の情報を連結することにより、データを活用した保健事業の進化と、実証研究のさらなる推進が期待されます。