【イベント報告】未来洗浄研究会セミナー: サステナブルな洗濯を考える(2)ー水とエネルギーの視点から

出典: Unsplash
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文:マコーリー 塩田 恭子

未来洗浄研究会は9月1日に第2回セミナー「サステナブルな洗濯を考えるー水とエネルギーの視点から」を開催しました。研究会にとっては初めてのオンライン開催となりましたが、企業関係者や研究者など約40名の方にご参加頂き、花王株式会社ESG活動推進部の金子洋平部長による総合司会のもと、水とエネルギーを減らす洗濯について活発な意見交換がなされました。

開催挨拶・趣旨説明

セミナーでは始めにフューチャー・アース日本ハブ事務局長および東京大学未来ビジョン研究センター客員教授の春日文子氏により、2018年12月に設立された未来洗浄研究会の目的とヒアリングや設立シンポジウム、第1回セミナーなど現在まで実施された活動について紹介されました。また、共立女子短期大学生活科学科の山口庸子教授より第1回セミナーのテーマであるライフサイクルに関する説明がありました。製品やサービスに関わる資源採取から製造・流通・使用・リサイクル・廃棄に至るまでの環境負荷を定量的に算定する方法であるライフサイクルアセスメント(LCA)の基本的考え方、評価対象を単一の製品から社会全体に拡大させると共に経済的価値や消費者の関わりの視点を含めるソーシャルLCA、時間軸を加え、技術革新や価値観の変化を加えたダイナミックLCAの考え方について説明がありました。また第1回セミナーの議論を振り返り、衣料用洗剤のライフサイクルを考えながら、日々の洗濯課題を解決するため出された様々なアイデアが紹介されました。

講演1:「水、気候変動と持続可能な開発」

続いて、東京大学大学院工学系研究科および国際連合大学上級副学長の沖体幹教授による水と気候変動、持続可能な開発に関する講演があり、洗濯で使う水が現在どういう状況にあるのか、気候変動によりどのような影響を受けているのかについてご説明頂きました。まず雨から見ていくと、日本で降水量極値を決める大きな要因は水蒸気量で、暑い日には強い雨が降りやすく、寒い地域の方が温暖化で極端に強い降水が増大する可能性が大きいと報告されました。また温暖化とCO2排出量の関係性を示すデータとして、1876年からのCO2の累積排出量(GtCO2)と地表表面気温の変化を比較し、排出量が増えるにつれ表面気温が上昇していることが示されました。さらにNDC(各国が決定する貢献目標、パリ協定を批准した国が提出を求められる)に基づくシナリオでは、1.5度目標を達成するために必要な排出量を削減できないことも示されました。一方、降水量について、降水強度が1割増加すること豪雨の頻度が約3倍になることも報告され、20世紀における100年に1度の洪水が21世紀には何年に1度に変化するのか、年々甚大化する気象災害が「まさか」だったのが「またか」になっていきていると指摘されました。続いて、使う水の量と価格について生きるために必要な飲み水、洗濯や入浴など健康で文化的な生活のために必要な水、穀類や家畜など食料を得るために必要な水とそれぞれに分けてデータが示され、日本全国では人口と必要な水を供給できる面積は何とか釣り合っているものの、人口密度の高い都市部は周囲から水をもらわなければ足りない状況であると指摘されました。最近、日本で水不足が起きることが少ないのは、降雨量が増えたり節水が進んだりしたことよりも、ダムを増やして貯水量を増やした影響が大きいとの解説もありました。また食器洗いのCO2排出量や光熱費を見ていくと、一回あたりで考えると水で手洗いというのが一番CO2排出量は少ない一方、光熱費では食器洗い乾燥機の方が安くなっているというデータも示され、持続可能な社会のためには、水、食料、エネルギーと三位一体で考えるべきで、このことは洗濯や洗浄を考える際にも重要な点であるとの指摘がありました。

講演2:「環境に配慮した洗濯機開発について」

続いて、洗濯機開発において環境負荷を減らすための技術がどのように開発されてきているかということについて、日立グローバルソリューションズ商品戦略本部商品開発センタの南雲博文氏にお話頂きました。洗濯による汚れは洗剤、機械力、水の3つで落ち、一般的な洗濯機の動作ではすすぎのところで水を一番多く使うということでした。洗濯機の種類においてはドラム式だと層を横に傾けて、たまった水を上下に回転させて洗うので水の使用量は一番少なく、次に縦型節水タイプ、最後に縦型洗濯機となるそうです。また環境に配慮した技術として「eco水センサー」というセンシングシステムがあり、水の硬度、水温、洗剤、布質、布量、すすぎ具合、脱水具合の7つを判断し、洗剤量、使用水量、洗濯時間を調整するセンサーが紹介されました。水の硬度によっても洗剤の泡立ちが違うので硬度によって使用水量を調整したり、化繊が多い場合は使用水量を抑えたり、すすぎやすい洗剤の場合はすすぎを2回から1回に減らしたりする等、このセンサーでエコに洗濯ができる機能になっているそうです。さらに、乾燥機能においてはヒーターだけの熱でなく、運転時に発生する熱を回収して乾燥時の温風に活用するヒートリサイクル乾燥という省エネ技術も開発されていました。最近のモデルではAIを搭載して計測、洗い、すすぎ、脱水のそれぞれの段階でセンシングができ、合計9つのセンシング技術が搭載されているということも紹介されました。このセンシングは、まず布量、水の硬度や水温を計測し、適切な洗剤量と水位に設定し、さらに洗剤、布の動き、汚れの量を判断し、適切な洗い方と時間を設定します。その後すすぎの段階では布質によって使用水量を調整し、すすぎ具合を見ながらすすぎの回数を調整します。最後に衣類から出る水分量が少ない場合は脱水時間を調整できるようになっているとのことでした。「eco水センサー」技術に加えて汚れを検知して、洗剤の種類に応じて適切な洗い方をする技術を組み合わせて新しいAI洗濯として開発されたということを報告されました。

グループディスカッション

これらの講演の後、洗濯に関わる水とエネルギーについて、生活者、技術、社会システムの3方向から必要な対策を考えるグループディスカッションが展開され、参加者同士でサステナブルな洗濯に関する活発な意見交換がなされました。出された意見の中には、洗濯に関する環境負荷として電気代という指標だけでなく、排出している二酸化炭素量など環境負荷に関する情報を多面的に共有することや、サステナブルな洗濯に関しては知識が限られており、どうしても我流になってしまうので何らかの形で洗濯教育があったら良いという意見がありました。価格だけでなく地球環境に与えたプラス面を生活者にどう伝えていくかが必要であるということや、二酸化炭素の排出削減のみを見ていることは環境負荷全体を把握できているわけはないので、ライフサイクルを考えて全体を俯瞰していく必要もあるという重要な指摘もありました。

さらに、すすぎ1回で済む洗剤のように使用水量も減って時短にもなっている等、環境のことを考えて不便なことをするのではなく、環境にも良く便利なもので、両方においてプラスの効果が出ている必要があるという重要な指摘もありました。また汚れや菌などが目に見えるようになると洗濯の目安になることや、AI洗濯のようなものを更に開発して環境負荷がどれだけ減ったのかを可視化できるようになると生活者の意識が変わってくるのではないかというアイデアも出てきました。また各家庭から排出される水を家庭内できれいにできないかというアイデアや、汚れの落ちやすい衣類があると使用する水やエネルギーを減らせるという意見も出ました。また、食べこぼしによるシミや泥汚れは毎日つくわけではないので、汚れに適した洗い方やすすぎ易い洗剤ができると水や消費電力を減らしていけるのではないかというものがありました。

一方、社会システムにおいては個人所有からシェアに移行していくのではないかという指摘があり、個人が洗濯機を所有すると台数が増え環境負荷も増えるのでシェアリングの検討をしたらよいのではないかという意見がありました。外部に委託し、そこで最新の洗濯機を使って環境負荷を減らすというシェアリングに繋がるアイデアも出されました。さらに日本社会が直面している少子高齢化対策として、高齢者を取り残さないサービスや、ボタンが一つしかない等使い易い機器が必要になるという指摘もありました。日本と海外の洗濯方法の違いについても指摘もあり、日本の仕組みだけを考えるのではなく、海外の仕組みも考えながらサステナブルな洗濯を追求していく必要があるという意見も出されました。今後必要な社会システムとして再生可能エネルギーを更に推進して電気をサステナブルに供給していく必要があるという意見も複数のグループで出されました。

講評・コメント

最後に講評・コメントとして沖教授から、洗濯に関しては私たちが環境に対してどう思うか、清潔ということに対してどう思うかという感情と切り離せないので、その感情が満たされた上で環境負荷が少ない未来の洗濯を考える必要があるという指摘がありました。単にエネルギーや使用する水量を減らせばいいということではなく、適正に使って多くの人が人間らしい暮らしができるようになるという観点が必要だと指摘されました。また未来にこういう洗濯があったら良い、こういう洗濯機があったら良いという自由な発想をもっとしていく必要があるという次回に向けての課題も示されました。

まとめ

今回のセミナーでは洗濯に関わる水とエネルギーに焦点をあて、その環境負荷を減らすにはどうしたら良いかということについて議論しました。洗濯に関する正しい知識の重要性や、環境負荷の「見える化」、シェアリングの推進、便利な暮らしと環境負荷の少ない生活の両立という、サステナブルな洗濯の実現に向けて重要なアイデアが出されました。環境負荷を減らすためには多少不便があっても仕方ないと思ってしまうのが現状ですが、便利で楽しいサステナブルな洗濯ができるようになるにはどうしたらいいか、引き続き議論を重ねていきたいと思います。

【参考情報】

セミナー開催報告と講演資料