【イベント報告】気候非常事態ネットワーク設立総会
11月18日、東京都内にて気候非常事態ネットワーク(Climate Emergency Network; CEN)の設立総会が開催されました。当該ネットワークは世界的に急務である気候危機を背景に、広がる気候非常事態宣言やカーボンニュートラル(ネット・ゼロエミッション、温室効果ガスの排出正味ゼロ)を目指す社会を実現するために、包摂的で公正な転換を支援するネットワークです。日本でも35の自治体が気候非常事態宣言を行い、148の自治体が2050年二酸化炭素排出実質ゼロを表明しています(2020年6月現在)。気候非常事態ネットワークの発起人は、東京大学名誉教授の山本良氏一と特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン理事長、サラヤ株式会社代表取締役社長の更家悠介氏が代表を務め、アカデミアや民間企業、政府、市民社会からの様々なセクターの関係者が発起人として名を連ねています。フューチャー・アース日本ハブ事務局長の春日文子も発起人として参加しています。
設立総会では様々な有識者が祝辞や講演を行いました。東京都知事の小池百合子氏や環境大臣小泉進次郎氏も祝辞をされました。(設立総会プログラム)
春日は「環境危機の重なりが招く持続可能性の崩壊を防ぐために」と題して、幸せ経済社会研究所所長の枝廣淳子氏に続いて二つ目の講演を行いました。まず初めに、近年国内で増加している極端気象災害について触れ、新型コロナウィルスによる社会的活動の停止を要因とした二酸化炭素排出量が急激的に一時的減少したこと、しかしそれは大気中CO2濃度への影響はほぼ皆無だと推察されていることを説明しました。この気候危機の状況を鑑みて、フューチャー・アースの国内の有識者が集まる委員会が設置されている日本学術会議では、会長談話として「「地球温暖化」への取組に関する緊急メッセージ」を発出したことを紹介しました。会長談話のメッセージとして、改めて気候変動の現状は差し迫った危機であることや、同時に 気候変動だけでなく、生態系(生命圏)も危機的状況にあること、ゼロエミッション達成だけではなく、生命圏(生態系)維持と連環した課題の同時解決の道が重要であることを強調しました。そして、そのためには価値観を含む社会の転換が必要であると説明しました。 コロナ危機も実は土地利用変化、野生生物取引、人の移動のグローバル化・スピード化等の要因により引き起こされ、地球環境変化と強く連関しているため、サステナビリティと健康の関係性が指摘されているPlanetary Healthという概念に当てはまります。また、プラネタリ―・バウンダリー(地球の限界値)という理論でも地球環境の安定性を維持する9つの最重要プロセスを特定していますが、気候変動、生物多様性、土地利用、窒素・リンの 4つが限界値を超え、危険領域に達していることが報告されています。それらの限界値を超えないためにも持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals; SDGs)の地球規模目標達成が急務ですが、目標の達成に向けて現状の理解、説明、目標値設定のために、科学的根拠が必要です。しかもその知識を集約するためには一つの科学分野だけでは問題が解決できないため、特に人文社会科学と自然科学の分野を超えた連携が必要です。
フューチャー・アースは、分野を超えた科学的知見を収集するための多様な活動を行っています。例えば、世界的な研究者が集うグローバル・コモンズ・アライアンスという枠組みにおいてアース・コミッションをホストし、生物多様性、土地利用、水資源、海洋などの目標設定を行うための分野横断的な研究データの網羅的収集を行っています。研究者が各環境課題毎に整理した最新の知見は、都市や民間セクターにおける具体的な科学に基づくターゲット(目標値)の設定に使用されます。また、情報を共有し関係者の連携を深めるメディアポータルも設置されます。その他にも、国連の気候変動締約国会議(COP)でも毎年「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ」を発表し、その年の気候変動の最新研究から主要な成果を発表しています。また、急進的気候アクションロードマップ(Exponential Climate Action Roadmap)という統合レポートをパートナー機関と作成し、パリ協定で定められている二酸化炭素排出削減目標を達成するために、どのセクターが、いつまでに、 どれだけの貢献をすればよいかを示しています。この様な活動を通じて、フューチャー・アースは気候危機を解決する道筋を関係者との対話を重視して行っています。
関連して、気候非常事態の認識に関する国内の動きも加速しています。衆議院で11月19日、参議院で11月20日に「気候非常事態宣言決議」が採択されました。決議では、地球温暖化を要因とした熱波、森林火災、洪水やハリケーンの自然災害が多発していることや、パリ協定達成に向けた各国の温室効果ガス排出削減目標が不足していることを背景に、「もはや地球温暖化問題は気候変動の域を超えて気候危機の状況に立ち至っている」という認識を示しています。そして、気候危機を克服するために、日本における脱炭素差社会の実現を急務とし、それに向けた経済社会の抜本的な再設計・取り組みを行うことを宣言しています。
国内外での気候危機に対する認識が広まる中、フューチャー・アースも社会の一員として引き続き科学的知見の結集、広報、そして関係者との実践を通じて気候危機の解決に向けて貢献していきたいと思います。