グローバル経済リスクの分析と政策研究ユニット

趣旨

本研究ユニットは、特に日本を念頭に置きつつ、グローバル経済リスクに適切に対処するための政策を提言することを目途としています。とりわけ、先進諸国に関しては最近の世界的な保護主義の高まりに、発展途上国に関しては持続的な経済発展の阻害要因に、それぞれ留意しています。

世界金融危機の後、先進国ではポピュリスト政治家により、保護主義的な政策が提言、または推進されてきました。これらの政策は、低成長、財政危機、所得不平等の悪化など、経済状態の不満を持つ大衆に支持されています。従って、こうした経済問題、ひいては人口高齢化などさらに深い構造問題をしっかりと理解した上で、政策提言がなされる必要があります。

その後のコロナ禍、そしてロシアのウクライナ侵攻を経て、世界の貿易・国際金融は大きくその自由度が低下してきており、国際通貨基金などの調査によれば、その世界の経済成長が大きく阻害されてきています。また、安全保障に経済・金融の対策が使用されるようになりましたが、多くの中立国の存在と迂回貿易などにより、その安全保障に対する効果に大きい疑義が生じています。その一方、自由な貿易と国際金融取引によって経済相互依存を増加させる方が、戦争を始めるコストを高め、平和が持続するという声があり、それこそが1944年に行われた第二次大戦後の国際経済体制を形作ったブレトン・ウッズ会議の理念でした。こうした二つの考え方を、包括的に理解する必要が喫緊の課題として現れています。

多くの発展途上国においては、コロナ禍や国際貿易の阻害による食料やエネルギー価格の高騰、また先進国の金利上昇を受けて、国家債務危機や経常収支危機が噴出しています。短期的には、こうした経済・金融危機にどのように国際社会は対応すべきかを真摯に向き合う必要があります。中長期的には、以前から指摘されてきた経済的自由、教育機会均等、公衆衛生拡充などもさらに追及しつつ、経済発展を持続的なものとするために、大所高所から、どのような世界経済システムが望ましいかという根本的な問題を熟慮した上で、政策提言がなされる必要があります。

世界的な覇権国家間での争いがあり、また多くの発展途上国と先進国間で異なる世界観が成り立っている中で、気候変動問題など、世界全体で対応すべき課題があります。こうした中で、政策対応はどのようにあるべきであり、金融面でそれをサポートできるかという切実な問題があります。また、各企業のレベルで気候変動問題にどのように対応できるかという企業行動の問題もあり、これらの分野において、経済学の知見を発揮していく必要があります。

研究内容

目的の達成のため、本ユニットは下記のトピックに関し、学術研究者による本格的な研究に、熟練した実務家による実社会の経験を加えて、造詣を深めることとします。

  • 保護主義
    国際金融システムと政策
    貿易と国際資本取引
  • 気候変動と財政・金融・企業行動
    税と補助金
    金融(グリーンボンドなど)
    企業会計、監査、コーポレート・ガバナンス
    発展途上国への援助
  • 高齢化問題と財政・金融
    高齢化の影響
    セーフティ・ネット(年金制度、医療保険、生活保護)のあり方
    金融による対応(NISAの評価など)
  • 低成長
    人口高齢化の影響
    生産性向上
    成長と不平等の関係
活動指針

上記研究を推進するほか、関連したワークショップやコンファレンスを開催し、学内外の学術研究をサポートし、国内外の研究者のネットワークも広げ、広く知見を吸収していきます。また、同時にコンファレンス等を活用したり、ウェブページや新聞・雑誌等で研究の紹介や政策の提言を行うことで、成果を広く社会に還元します。