SSUフォーラム「ウクライナの復興:方法とメカニズム」
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日程:2023年05月22日(月)
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時間:16:30-18:00
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会場:Zoomによるオンライン
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします。 -
主催:
主催:東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
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言語:
英語(同時通訳なし)
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お申込み:
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ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した2022年、ウクライナのGDPは30%近く減少し、多くの地域が戦争で荒廃したのみならず、戦前のウクライナ人口の約3分の1に達する800万人以上の難民と500万人近い国内避難民が発生し、国内インフラは劇的に弱体化しました。リスクと不確実性は依然として非常に高いままです。ウクライナ政府、世界銀行、EU、国連が共同で試算したウクライナの復興・復旧費用は、10年間で最低でも4110億米ドルに上り、公的資金と民間資金の双方が必要となっています。
現在国際社会は、先進国や国際機関を中心に、ウクライナの重要なインフラを再建し、市民の犠牲を防ぐための大規模な資金的・技術的な支援に取り組んでいます。これは、戦争で被害を受けたウクライナ製品の輸出に新たな機会を与えるものです。
しかし、ウクライナに持続可能な市場経済、機能的な国家、そして繁栄する民主主義を取り戻すことには困難が伴います。その意味で、外国からの援助を活用するための包括的な取り組みや、復興の方法と方向性の調整、そして復興プロセスにおける汚職の防止は、当面の最優先課題の一つとなっています。過去の他国の経験からどのような教訓を得ることができるのか、日本の経験からどのような示唆を得られるのか、またウクライナにはどのような道筋があるのか、といった問題について考える必要があります。
本イベントでは、2023年5月に広島で開催されるG7サミットに合わせ、日本とウクライナの専門家が一堂に会し、課題の明確化、効果的な枠組みの設定、そして将来の行動に向けた土台の構築を目指します。東京大学未来ビジョン研究センターのイニシアチブで始まった今回の対話が、今後数カ月から数年にわたる生産的な協力のための足場となることが期待されます。
5月22日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使を基調講演者としてお迎えし、「ウクライナの復興:方法とメカニズム」と題したフォーラムを開催しました。本イベントは、日本における戦後の復興経験から得られた知見を、ウクライナの経済・社会再建に役立てようという試みです。
開催挨拶
まず、東京大学未来ビジョン研究センター長の福士謙介教授、ならびに東京大学副学長の林香里教授より開会の挨拶がありました。福士教授は、コルスンスキー大使をはじめとする登壇者に歓迎の意を表し、急速に変化する世界の課題に対処するために、学者と政策担当者が協力するプラットフォームとしてのIFIの役割を強調しました。IFIは、学術的な知見と革新的な思考によって、永続的な価値を持つ政策やイニシアティブに貢献することを目指しています。
林教授は、市民のエンパワーメント、イノベーションの育成、そしてレジリエントな社会の構築を通じて未来を形作る上で、教育が果たす極めて重要な役割について言及しました。東京大学は、ウクライナ侵攻に際して、危険にさらされている研究者や学生のための緊急救援プログラムを立ち上げました。その結果、ウクライナの学生や研究者は現在、東京大学で様々な分野の研究を進め、学術界に有意義な貢献をしています。
基調講演
開会挨拶に続いて、セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使による基調講演が行われました。コルスンスキー大使はまず、G7広島サミットにおける、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領を中心とするウクライナ側と岸田首相をはじめとする首脳との会談の重要性を指摘しました。この会談は、復興に向けたウクライナの努力を支援するために国際社会を動員する上で、実りあるものだったといいます。また、大使は、日本、韓国、ベトナム、中国の復興経験を比較分析した近刊の著書について紹介しました。第二次世界大戦や大震災の後、都市やインフラの再建に膨大な努力が払われました。日本の経験は他国でも再現され、国境を越えて人々に恩恵を与えているとのことです。
復興の問題は複雑ですが、歴史の教訓によれば、政策的介入の性質とペースについては、明確な結論が存在します。現在、ウクライナでは大小約2000の都市が多大な損失を被っています。費用対効果の高い持続可能な方法で、新しいものを作り、あるいはかつてのものを再現するにはどうしたらいいのでしょうか。高速道路、エネルギーインフラ、橋梁、新幹線、都市計画などに関して、ウクライナは他国から多くの助言と支援を期待することができます。世界トップレベルのインフラを整備することは、ウクライナの欧州との統合を含めて、さまざまな面において重要です。日本企業は、欧州連合(EU)との協力関係が長く、インフラや交通システムなどに関するEUの基準にも精通しています。また、ウクライナは、シンガポールのようなアジア諸国やグローバル・サウスの国々を含む、より広い国際社会からの援助を受け入れる準備もできています。
歴史を振り返れば、国を立て直すには長い時間がかかることがわかります。ウクライナには時間的余裕はありません。学業に励むことができたはずの世代が、国を守るために武器を手にしなければなりませんでした。COVID-19の影響もあり、戦時中の年数に加え、2年間の歳月を奪われました。大使は、祖国を追われたウクライナ人が戻ってきて、祖国を再建してくれることを期待しており、彼らがウクライナと世界の架け橋となることができるだろうと述べて、講演を締めくくりました。
ディスカッションおよび質疑応答
大使の講演を受けて、討論者としてSSUユニット長の高原明生教授、国際協力機構(JICA)中東・欧州部長の松永秀樹氏が登壇しました。高原教授は、第二次世界大戦の体験が社会に大きな影響を与え、戦争の悲劇に対する日本人の考え方を規定したと指摘しました。広島はG7の開催地として適切な場所であり、日本による侵略戦争であった第二次大戦を通じて、どの国も武力行使によって現状を変えることはできないということを国民は学びました。国連安全保障理事会の常任理事国の1つであるロシアが武力不行使の原則を簡単に破り、世界にも日本にも衝撃を与えました。今回ゼレンスキー大統領がG7で国際的な連帯を固めることができたのは、大変良いことであったと考えています。
高原教授によれば、復興という話は当然大事であるものの、まずは戦争を終わらせることが必要です。戦後、外部からの支援を受けながら復興していくには、意志の力が必要です。外部からの支援だけでなく、ウクライナ国民1人ひとりの決意も重要となります。戦争を終わらせるためには、G7だけでなく、いわゆるグローバル・サウスを巻き込むことも重要になるでしょう。インドやブラジルのような国々は、他国での支持を集めるのに役立つかもしれません。中国の役割も、ロシア政府に和平に目を向けさせるためには重要です。最後に、第二次世界大戦後に設立された国際連合は、その目的を果たすことができませんでした。改革が必要であることは多くの人々が認めるところですが、どのようにすればよいのか、簡単な答えはありません。
高原教授に続いて、松永氏が登壇しました。松永氏はまず、ゼレンスキー大統領の存在が、G7会議をより有意義なものにしたことを指摘し、JICAは、2022年2月の紛争開始以来、世界銀行と共同で財政支援を行うなど、ウクライナを支援してきたことを紹介しました。JICAの支援は、政府機能の継続支援、近隣の受入国や侵略によって避難したウクライナ人への支援、そして復旧・復興支援という、3つの柱で構成されています。日本はウクライナに対し、人道支援、復旧・復興支援のために76億米ドルを拠出しています。JICAのウクライナにおける業務の大半は、ODA融資、ODA無償資金協力、そして技術支援です。これらの業務は、日本や他の国々での復興支援経験に基づき、ウクライナの実情に合わせたものとなります。
JICAの継続的な対応としては、世界銀行との共同融資として6億米ドルを拠出し、医療機器の提供(モルドバに最大10億円)、地雷除去訓練やIT分野の技術協力(ポーランド)など、ウクライナ人を受け入れた隣国ポーランドやモルドバのレジリエンスを高めることなどが挙げられます。また、JICA国内事務所が自治体と連携し、日本国内のウクライナ避難民を支援することも含まれています。その他、衛星画像やデータ収集調査による被害・ニーズ調査の準備、ウクライナ政府機関への発電機の提供、地雷探知機の機械提供や使用実習を通じた人道的地雷除去技術協力、災害後の廃棄物処理に関する知識や経験の共有、ハルキウの小規模農家への種子提供による農業復興支援などがあります。
松永氏は、甚大な被害に直面した人間のレジリエンスについて言及し、プレゼンテーションを終えました。破壊されたウクライナのインフラと重ね合わせながら、広島の小学校の瓦礫の中で学用品もなく授業を受けている子どもたちの姿を紹介しました。子どもたちを教えていたのは、原爆投下によって髪を失った若い女性でした。この例は、インフラよりも重要な人的資本の価値を物語っています。松永氏は、ウクライナの素晴らしい人々が、一日も早く国の再建に成功することを願っていると述べました。
2人による議論の後には、対面およびオンライン参加者からの質問を受け付けました。司会はナジア・フサイン講師が担当しました。復興に向けたJICA・銀行・ウクライナ間の協力の見通し、ガバナンス改革の重要性、復興プロセスの効果的な管理、これらの取り組みを行う上での時間の制限、国内のさまざまな地域の惨状を国際社会に確実にアピールすること、などについて質問が行われました。回答では、これらの懸念の重要性を認識した上で、ウクライナ政府関係者がいかに最善を尽くしているか、そしてJICAが戦争勃発以来一貫してウクライナを支援してきたか、という点に重点が置かれました。