SDGs協創研究ユニット 都市化する世界における複合的ストレスの解明

シカゴ学派やロサンゼルス学派に始まり、都市をグローバルなネットワークにおける結節点ととらえる議論や脱植民地主義の視点に至るまで、都市に関する様々な理論によって、「都市」を構成するものは何か、あるいは人々が「都市」という際に何を意味するのかについて、批判的な考察が行われてきました。これらの議論は、ダイナミックな社会的空間である都市について理解を深めることに寄与しています。

これらの議論に基づいて、本研究プロジェクトでは、都市空間を単なる視角としてだけではなく、複合的なストレスが集まる世界における変化の場として捉えることにより、都市空間がどのように機能しているかについて探求します。これまで長い間、都市は、文明の起点として見なされてきましたが、現在、都市は、これまでにないほどに変化の場を意味するようになっています。都市には、気候関連のリスク、内外からの移住、伝染病、国境を越えた犯罪テロネットワークなどが集中します。さらに、これら現象間の相互作用や先行する現象のダイナミクスが都市空間を形成してきています。

政府と新自由主義の論理が交互に反応するにつれて(このような危機を形成する上で、そもそも政府や新自由主義の論理が重要な役割を果たしたと指摘する人もいるかもしれません)、都市には、このような難しい課題が集中するばかりでなく、社会における既存の分断線を深め、またさらには新たな分断線が形成されます。しかしながら、都市はこのように受動的な存在ではありません。実際には、現地の住民が、自らの生存のために、変化する現実に適応すべく最大限努力することにより、すでに複雑になった状況をより複雑にしてしまう側面もあります。

ストレスを与える者とストレスを受ける者、フォーマルとインフォーマル、統治者と被統治者の間の相互作用においてこそ、新たな社会的・政治的・経済的景観が時空を超えて進化します。社会的・政治的に不利な状況にある集団の疎外化の増加、および不安を表す社会的・政治的表現は、現実世界における私たちの関心を高めます。これらの現象の融合が、ガバナンス、不平等、社会的・政治的プロセスにどのような影響をもたらすのかは、研究者にとって挑戦的なパズルを提示しています。

都市におけるストレスと社会的・政治的・経済的ダイナミクスの間の相互作用を理解することは、システムの変更を決定する際に政治と権力が果たす積極的な役割を理解するうえで役立つとともに、それによって人間の主体性を捉えることができます。多くの都市では、基本的権利へのアクセスは激しい争いの場となります。犯罪的・政治的暴力が政治経済を形成します(またあるいは政治経済によって犯罪的・政治的暴力が形成されます)。新自由主義に基づく経済的・政治的政策は、不平等を著しく定着させるとともに、公共福祉政策の範囲を制限してきました。どのようにして、これら表面化するリスクが生態系を圧倒するかについては、未解決の課題です。

同様に、それは政策立案者にとってのジレンマです。ダイナミックな地域の現実を深く理解していなければ、持続可能で公平な都市の未来のビジョンは捉えることができなくなるでしょう。さらに悪いことに、全体論的な視点がない場合、政策立案者は懲罰的な政策を正当化するような不適当なビジョンを採用してしまいます。しかし、多くの都市の経験が示すように、都市景観のさらなる複雑的な側面を捉えていなければ、高圧的な解決策では根深い問題に対処することができないでしょう。

私たちは、人間のレジリエンスに賭けるか、あるいはすべてが失われる暗い未来に陥ってしまうのでしょうか?本研究プロジェクトではどちらの視点も採用しません。代わりに、本研究プロジェクトでは、学際的な研究を掲げつつ、細分化されたアプローチとは対照的に、表出しつつある現実の理解に努めます。本研究プロジェクトでは、様々な分野・地域の研究者や実務者が参加し、複眼的な視点から分析していきます。このようなアプローチは草の根レベルの関心を地球規模の解決策につなげるものであり、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取組みにも貢献するものともなるでしょう。