AIガバナンスプロジェクト 記憶と忘却のガバナンス研究会

研究目的

本研究会は、人格形成や社会的・歴史的認識を左右する「記憶と忘却」の基盤に関するガバナンスを検討し、建設的な形で実務に還元することを目的としています。いわゆる「忘れられる権利」など、パーソナル・データの取扱いをめぐって個人の利益と公共の利益という2つの利益が衝突しうる場面において、(a)両者を適切に調整する規範と、(b)規範を実現する仕組みについて、ガバナンス案として提言することを目指しています。

研究の背景

ある人にまつわる情報をデータとして記録・活用することは、現在・将来において、個人や社会の根幹を支える知的資源になります。他方、パーソナル・データが大量に収集・蓄積・分析される現在において、社会がすべてを「記憶」することの課題も生じています。

典型例として、犯罪歴などの取扱いが挙げられます。かつては、物理的制約によって情報が「風化」され「リセット」されたため、更生の機会確保にもつながってなっていました。しかし現代では、報道のデジタル化、検索技術の普及、アーカイブの発達などによって、誰でもいつでも容易にアクセス可能となり、問題視されています(「忘れられる権利」論)。同時に、当該個人が公職等にある場合など公益との関係はどうか、削除対応により報道機関や検索サービス提供者などの表現の自由が過度に制約されるのではないか、などの疑問も示されているところです。適度な「忘却」が求められるとしても、どの情報を社会的「記憶」にするか、また、その決定を誰がどのように行うか、いまだ網羅的な指針はありません。

そこで、本研究会では、(a)指針の基盤となる概念・価値や、利益間の衡量の枠組みを明らかにし、(b)それを実現するための政策の方向性などを示します。なお、遺伝情報など他者に影響が及ぶ情報を個人の自己決定に委ねてよいか(「グループ・プライバシー」)、データ流通の基盤を支える新しいアクター(検索サービス提供者や「情報銀行」などの事業者)と公的機関(司法・行政・立法)の間の規範策定・執行に係る役割分担はどうあるべきか、データポータビリティ、社会的烙印と包摂なども検討の射程に入ります。

想定される成果

最終的には指針を提言としてまとめます。そのために、セミクローズドな研究会を開催して報告・討議を行います。また、開催報告として毎回イベントレポートを作成・公表します。中間的な成果物として、学術雑誌等への論文等を掲載する形で逐次公表します。加えて、研究成果を広く社会一般と共有すべく公開型のイベントやワークショップを企画・運営します。

研究会構成員

  • 磯部哲(慶應義塾大学大学院法務研究科)
  • 生貝直人(東洋大学経済学部総合政策学科)
  • 江藤祥平(上智大学法学部国際関係法学科)
  • 大屋雄裕(慶應義塾大学法学部)
  • 小島慎司(東京大学大学院法学政治学研究科)
  • 宍戸常寿(東京大学大学院法学政治学研究科)
  • 友岡史仁(日本大学法学部)
  • 城山英明(東京大学大学院法学政治学研究科/東京大学公共政策大学院/東京大学未来ビジョン研究センター)
  • 江間有沙(東京大学未来ビジョン研究センター)
  • 工藤郁子(「記憶と忘却のガバナンス」研究会事務局)

成果物である提言は、上記の構成員でまとめる予定です。ただし、議論の方向性に応じて、研究会開始後でも構成員を増やす可能性があります。また、スピーカーやオブザーバーなど、構成員外からの招待・参加許可も想定しています。そのため、セミクローズドな会議体となります。