子どもの健康づくりとデータヘルス
学校は児童が最も多くの時間を費やす場であり、健康づくりに関する習慣形成の場として重要です。しかしながら、学童期に保健の学習内容が多いほど、成長後、生活習慣病の予防意識が高まることが報告されている以外、学童期における健康教育の効果を実証した報告はほとんどありません。その背景には、長期的に児童などが受けた教育内容、社会経済的な因子をはじめとして健康と関連するその他の因子を把握することや、縦断的な追跡の困難さから、検証に至らないことが考えられます。本研究ユニットは静岡県と共同で生活習慣病予防教育プログラムを構築し、県内の小学6年生の保健体育で行う「生活習慣病予防」の副教材として導入されました。このプログラムの特長は、その地域の住民の健康状態を示すデータヘルスを活用していることにあります。授業は本研究ユニットのメンバーが出前授業を通じて、約1,100名の児童に行いましたが、今後は養護教諭が授業できるようにマニュアルの整備も行いました(上村, 2020)。静岡県での取組の後、健康保険組合との連携によってこのプログラムを継続し、令和4年度には国が行う実証事業で、複数の健保組合と母体企業と協力し、短期的な効果の検証を行うことになりました。
死亡前医療費の分解手法の提案
高齢化に伴って医療費の増加が課題となる中で、疾病予防による医療費の抑制効果に関しては様々な意見がありますが、これまでデータの制約により、実証的な検討はわずかです。また、疾病予防は特定の疾患を対象として組み立てられるのが普通ですが、通常の場合、人はさまざまな併存症を持ち、医療費の請求は疾病別に行われないため、医療費を疾病別に分類することは困難でした。これらの課題に応えるために、疾病の発生と医療費の異なる分布をベイズ的に解く手法を提案しました。さらに検討に用いたデータを使い実際に死亡前24ヶ月間の医療費の推移を求め、がんでは若年者の医療費の発生が高齢者よりも大きくなるのに対し、生活習慣病に関連する疾患では年齢による違いが見られないことを示しました(Hiramatsu et al., 2022)。この研究にはKDB(国保データベース)のデータを使っており、生活習慣病のリスクと地理を背景とした特徴の関連などについて検討を進めています。